＊隔靴掻痒＝痒くても靴を履いているために思うように掻けず、もどかしい思いをすること。
警告：暴力的な表現が含まれています。苦手な方はお避け下さい。
襟をたて、口元を隠しているためにその表情は、目から読み取ることしか出来なかった。
鋭い目は異様な光を帯び、嬉々としている。
きっと立ち上がった襟の下には、にんまりと笑った三日月型の口があるに違いない。
仕事をしている時の彼は、普段では絶対に見られない顔をする。
私に言わせればこの表情が実にセクシーで、ハートのど真ん中を打ち抜かれてしまった。
「ねぇ、フェイタン……フェイタンったら……」
私の声は仮宿になった廃墟に、吸い込まれてしまいそうなほどか弱いものだった。
声をかけては不味いのでは……私など見えていないのではないか？
そう感じるほど彼は真剣だ……と言うよりは、自分の世界に入っていた。
！！ベキッ！！
生木が裂けるような、鼓膜の奥に残る嫌な音がする。
……これで何回目の音か。
同時に、若い男の呻き声が漏れてくる。
必死に唇を噛み、痛みに耐えている。
苦悶で顔は歪み、額からは油汗が流れ落ちていた。
男は一時間前まで念能力者として、私達と戦っていた。
今は団長に念能力を奪われ、ただの人になっている。
後は生かさず殺さず拷問にかけ、男が知っているお宝の在り処を聞き出すだけ。
その役を、悦にはまりながらフェイタンがこなしている。
彼を観察していると、冷静と興奮が交互にやってくるようだ。
自身に緩急を付け、拷問という悦楽の世界に没頭している。
裸足で刃物の上を歩くように、全神経を研ぎ澄まし、一つ一つの動きに集中する。
無駄が無く、最小限の動きで最大限の痛みを与えようとする。
それでいて、命に影響を与えぬ範囲。
まるで、真綿で首を絞めるかのごとく。
これがプロの仕事と言うものなのだろう。
再び嫌な音が聞こえた。
先程よりはやや大きめの音。
順番に太い筋を断っているのだ。
関節をふわりと捻じり、骨を折ることなく筋だけを切断していく。
決して強引に捻るのではなく、人間の体を百二十％理解したうえ、力を必要とせずに実行しているのだ。
なんという職人技！
シャルナークやノブナガから話しには聞いていたが、目の当たりに見て感嘆の声をあげてしまう。
美しくも感動的なスキルに、芸術的なモノすら感じる拷問。
フェイタン＝リン、彼こそが真なる芸術家。
（かっかそうよう）フェイタンは腹が立つほどフィンクスと仲が良い。
おかげで彼が一人っきりでいることは皆無に等しい。
仕事はいつだって団長が二人を組ませるし、私生活だってべったりだ。
食事をする時、ゲームをする時、女を買いに行く時、常に二人でつるんで行動している。
別々なのは寝る時と、後はトイレと風呂くらい。
何が面白くて男同士でくっ付いているのか？
彼らがホームにいることは少なく、いつも二人で楽しいことはないかと外の世界をほっつき歩いていた。
私が幻影旅団に入団して早や半年！
フェイタンに一目惚れだった。
無口なくせにシャイなところがあって、天才的な拷問センスを持っていて♡
それとなく彼には態度で表してみたが、気が付いて貰えない。
それともわざと私を無視しているのか？
流星街に拠点を置く私は仕事以外ではフェイタンに会えず、いつも悶々としている。
恋と言うものは、思いが伝わりづらい時ほど燃えるもの。
奥ゆかしい私としては、彼にいつもお邪魔虫がくっついているため、大胆な行動に出るわけにもいかなかった。
彼が珍しくホームに戻って来た時、意を決して彼の部屋を訪ねようかとも考えたが、隣がフィンクスの部屋であると思うと実行できない。
なにせホームは安普請で声は筒抜け状態！フェイタンの部屋で告白なんぞ有り得なかった。
シャイな私にとって愛の告白は、一世一代の大勝負なのだ！
それが神からのお恵みか、はたまた団長の気まぐれか……
フェイタンとコンビを組むことになった。
私は歓喜した！二人っきりになれるチャンスなどそうは無い。
正しくは、この場には四人の人間がいる。
私にフェイタン、拷問されている男に団長。
団長は離れたところで瓦礫に腰を下ろし、読書に耽っている。
私がフェイタンに告白したところで耳には入らないだろう。
ここで告白しなければ、いつ告白するのだ。
頑張れ私！！
団長がフェイタンに三時間で白状させろと言った時、フェイタンが軽く鼻で笑う。
フェイタンにとっては十分過ぎる時間を、団長が遊びの時間としてフェイタンに与えたのだと知った。
逆に言えば団長は、三時間で本を読み終える計算なのだ。
すでに二時間四十五分が経過している。
私に与えられた告白タイムは残り十五分。
だがとてもじゃないが、告白出来るような状況にはなかった。
彼のテクニックならこの程度の男、十分もあれば楽勝で白状させることが出来るはず。
それを団長に与えられた三時間を目一杯楽しもうと、拷問の仕方を調整しているのだ。
なんて奴だと思いながら、彼が快楽に酔った顔を見ていると、私が立ち入る隙なんか有りはしないのが良く分かる。
私だってそれほど馬鹿じゃない。
彼の悦楽の時間を邪魔すれば、この上な私のく印象を悪くするだろう。
なんというもどかしさ……
許されるものならば、彼に拷問されてみたい
そして可愛い笑顔を作り、二人のだけの時に白状（告白）するのだ
『フェイタン、アナタを愛しているは。ワタシと付き合って』と。
End
2017/08/05 改稿
2009/03/19 加筆・修正
2007/10/24
Backフェイタンのフルネームはじゃんぷらおまけ資料集から。コミック３４巻において、シャルナーク・マチ・コルトピのフルネームに変更があったため、フェイタンのフルネームも今後変わる可能性あり。前者は編集部が付けた感じ？後者は作者が付けたものと思われる。