＊愁苦辛勤＝思い悩んで憂え苦しむこと。
「ねぇ、考えてくれた？」
断われないように、ルナが腕の中にいる時に訊ねた。
既に何度も同じことを訊いているけど、答えはいつもはぐらかされる。
だから今日は逃げ場が無いように、充分追い詰めておいて訊ねたのだが、やはり答えははぐらかされてしまう。
本当はノーと答えたいのだろうけど、その言葉を口にすれば俺に嫌われると思っている。
そんなことでルナを嫌いになるはずがないのに。
無理なことを要求しているのは俺の方だと承知している。
でもこのままで行けば、確実に別れはやってくる。
最近、誰かさんのおかげでめちゃくちゃ仕事が忙しい。
狙う獲物は誰かさんが決めるけど、奪うための手段と手筈は俺が考えなければいけない。
奪った後も、獲物を現金化するのは俺の役目。
仕事は完璧な丸投げ状態だ。
幻影旅団の仕事も、クロロ個人の仕事も、俺と必ず絡んでくる。
それに俺個人の仕事もあるしで……
別に計画を立てるのも、実戦参加も嫌いではないけれど（むしろ好きなくらいだ）、プライベートな時間をこれ以上削られるのは堪らない。
ルナとの大切な時間がどんどん減って行く。
そのうえこの街も、そろそろ離れなくていけなくなってきた。
ここを拠点にしていたのでは、仕事の効率が悪くてしょうがない。
世界を股にかける幻影旅団としては、一ヶ所に居続けることは出来ないんだ。
今までもそうだったし、これからもそうだ。
もし俺達に落ち着けるところがあるとすれば、やはり流星街しかないのだろう。
ルナに一緒に来て欲しかった……
たまたま団長の仕事で立ち寄ったこの街でルナと知り合った。
全てが平均値のルナ。
とても可愛いというわけでもなく、すごく頭がいいというわけでもない。
その代わり普通に可愛く、並みの頭。
ただ一緒にいると心地良い。
必要以上に気を使うこともなく、自分を曝け出すことに抵抗がなかった。
今まで付き合った女の子達はそれなりに可愛く、何か秀でた能力があって俺を惹きつけたのだが、一緒にいても気の休まることはなく、常にどこかで格好を付けなければいけない自分がいた。
おかげで付き合うという行為にすぐに疲れてしまい、やるだけのことをやったら、相手の意思など関係なく別れてしまう。
いつしかそれはパターン化されて行き、一時の楽しさを得られればそれでよかった。
でもルナは違った。
こうやって傍にいてくれることに安心し、腕の中にいてくれるとときめくくせに、穏やかでいられる。
普通でいられる自分が嬉しかった。
しばしの幸せ……
そんなものに保障がないことは知っていた。
だからこそ渇望するのだ。
また団長や仲間達と暴れられることも、俺にとっての幸せと言える。
相反する幸せ。
両方を望むのは、俺の我儘か！？
だから俺が幻影旅団の団員であることも、どういうポジションにいるのかも洗いざらいに話したんだ。
無理やりルナを連れて行くことも考えたけど、納得して俺に着いて来て欲しかったから。
最初は彼女の生活とはかけ離れた世界の話しで、現実感がなさ過ぎた。
それでも徐々に俺が盗賊集団の一人で、しかもＡ級賞金首の人殺しだと知った時は青ざめ、悲しげに俺を見つめていた。
それでも俺達は、互いを失いたくはなかった。
（しゅうくしんきん）結局は、全てを手に入れることなんか出来やしないのだ。
ルナにとっては住み慣れたこの街も、謳歌している学生生活も捨てられない。
何よりも、彼女を無償の愛で包む両親を裏切ることは出来なかった。
俺が全てを曝け出して得ようとしたものが、手の隙間から零れ落ちて行く。
だからって、それをみすみす許すほど、俺も人間は出来てはいない。
だって……我慢できなかったんだ
別れてしまえば俺はいずれ忘れ去られ、誰かが君の愛を得るのかと思うと。
俺が得た安らぎを、同じように手に入れる奴がいるのだと。
そんなことが許せるか！
誰かが俺のルナを手に入れるくらいなら……
俺の能力を使えば、問題は一気に解決する。
……でも、俺が欲しいのはそんなルナじゃない。
自分の意思を持ち、喧嘩もするが、溢れる愛で俺を包んでくれる愛おしい人。
『愛しているは、シャルナーク』、耳をくすぐる甘くやさしい声。
愛するルナを、誰からも奪われないように、君の時間を永遠に止めることにした。
手に残る細い首の感触
腕の中で受け止める、冷たくも甘い感覚
俺だけの君であるようにと……
End
2017/08/21 改稿
2009/03/19 加筆・修正
2008/08/30
Back最初のタイトルは喋喋喃喃で甘い話しのはずだった。書いているうちにシリアスに。急遽タイトルを変更に。シャルナークの方がクロロよりエゴイストな気がする。シャルナーク、解決策はいつも死……の方向へ。安直すぎるが、便利な解決方法だ。