＊青色吐息＝非常に困ったり、やり場のない状態に出る深いため息。
警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
予期せぬ言葉に狼狽する。
『……冗談だよね？』と訊き返そうとしているのに、上手く言葉が出てこない。
喉が張りつき頬が引きつる。
全身に起こる顫動を悟られまいと努力するものの、瞬きすらも忘れていた。
いつもは俺が不意打ちを食らわす方だが、不意打ちを食らうとはこういうことなのか。
仮りにやんわりと言われたとしても、ショックであることに変わりはない。
精神的には死刑宣告を受けたような絶望感と虚無感が交じり合う。
生まれて初めての経験に、対処の仕方が分からない。
目の前で優しく微笑む君はいつもどおり。
だから君が冗談ではなく、本気だってことはよく分かっていた。
残酷という域を通り越している。
ほんの数分前まで最高の幸せに浸っていたはずだった。
運命を感じ、一緒にいられるだけで満足を感じた。
君の前ではアレンジされた言葉も、物資的な誘惑も必要ない。
素直に自分を曝け出すことが出来る心地よさ。
俺が何者であるかを知った時も、君は動じることなく当たり前のように受け入れた。
純粋に、自分の片割れを見付け出したのだと思った。
それがなぜ？
俺は何を見誤った……
それとも最初から夢を見ていただけなのか？
（あおいろといき）どうしても上手く呼吸を整えられない。
必死の思いで声をうわずらせながら訊き直す。
「ねっ。も、もう一度。もう一度、言ってくれるかな。俺、聞き間違えたかもしれない……」
出来れば聞き間違えたことにしたかった。
でなければ、白昼夢を見ているのだと思いたかったが、答えはダメ押しになったに過ぎない。
「シャルご免なさい。私、あなたのことはとても好きよ。でも付き合ってみて分かったの。私の好きなシャルは、友達としてのシャルなんだって。だからこれからは、良いお友達として付き合っていきたいの」
再生し直したように、一度目と寸分違わぬ言葉。
それって、俺を男性としては見られないということ？
それとも異性として魅力が無いってこと？
だけど、散々肌を合わせてきたじゃないか。
君だって、かなり感じていたはずだ。
しかも自発的に、能動的に俺を求めた。
その答えは、『だって私、セックスが好きだから』。
俺だってセックスは大好きだけど……答えはあまりにも単純。
君が言う『……好きだから』は、体の相性が合う相手とだったら誰とでも好いと言うこと？
ならば俺としていたのは、愛情からではなかったのか。
体の相性はいいが、そのことで愛情は生まれてこなかった……
どこでずれが生じてしまったのか？
愛している女の子から友達として好きと言われるくらいなら、いっそのこと嫌いだと言われた方がましかもしれない。
その方が諦めもつくというもの。
でも好きだと言われてしまったら……後ろ髪を引かれてしまう。
俺の置かれた状態は、まさに蛇の生殺し……
君は赤裸々な話しをごく自然に口にする。
「シャルとのセックスは本当に素敵だったは。特に私の大好きな後背位は最高だった。あなたの激しく刻む律動と、最奥を突き上げる角度が誰よりもよかった。座位のやり方も、あんなに種類が豊富だったなんて、シャルが教えてくれなきゃ知らずに人生を終わってしまったかもしれない。でも一番好きだったのは、あなたが上になった時よ。足を抱えあげ腰を浮かせられて突き上げられると、気持ちが良過ぎて何度失禁しそうになったとか。あなたの汗が私に滴り落ち、私のために頑張ってくれているんだって。それにシャルのいく時の表情がどんなに切なく色っぽいか……私、思い出しただけで濡れてきちゃう。私の嫌いだったフェラも、あなたのおかげで好きになれたしね。以前は本当に嫌いだった。強制されているみたいで、行為そのものが支配されてるようで楽しくなかったから。でもシャルのだったら、いくらでも舐められるの。口の中がシャルでいっぱいになって、シャルの味がして。シャルと一緒に楽しんだ６９も、体の中が蕩けてしまいそうなくらい良かった。あげればキリがないほどシャルとのセックスは素晴らしかったの。だからね……」
俺を褒めてくれるのは嬉しいけれど、さらりと他の男と比較している。
嫌いだったフェラも、俺のおかげで好きになれたって？
俺の大きくなったモノを優しく握り、愛おし気に頬ずりをした後、上目遣いで口に含む姿がフラッシュバックする。
舌を絡めた卑猥な動きに上下する口元。
ディープな喉の使い方も特筆ものだった。
一滴も残すまいと吸い上げる厚みのある唇は、今思い出してもエロ過ぎる。
そこまで嵌っていた俺とのセックスなのに……なぜ？
「だからね……私はシャルとのセックスに可能性を感じてしまったの。いいえ、可能性を見いだしたのよ。何事も、試してみなければ分からないことが多すぎるの。一度しかない人生を、私はもっと自分のために大切にしようと考えたわけ」
それって俺とのセックスで、天性のエロティシズムに開眼したってこと？
嬉しいような、嬉しくないような……
「本当に、一方的な話しでごめんなさい。シャルが悪いってわけじゃないの。悪いのは私だから」
そう来たか……
俺が今まで付き合って来た娘達に、別れ際に言ってきた台詞がこのタイミングで言われるとは。
もう、返す言葉が無くなってきた……
つまり俺は君のアッシー・メッシー・みつぐ君であり、なおかつ彼女の性処理にも協力していたわけだ。
留めは彼女の可能性を開花させ、巣立ちを促したこと。
俺の心が虚しさに包まれる。
ならば最後に質問をしてみよう。
それなら君が愛を感じる男性とは、どんな人間なんだと訊ねれば、君は少し考えてから答えた。
「ほら、以前シャルが私に紹介してくれたことがあったでしょ。シャルと一緒に仕事をしていると言った、黒髪で額に包帯を巻いた人」
「……」
「知的なくせにちょっとミステリアスで、彼みたいな人とお付き合いしてみたい」
それって……
名前を確認するまでもなかった。
彼女の潤んだ瞳は、既にミステリアスな男の許へハートが飛んで行ってしまっている。
何事も、自ら試してみなければ分からないことが多すぎるから……
君が求めているのは恋人なのかセフレなのか……
俺の口から出て来るのは彼女に対する悪態よりも、やり場のない青色吐息……
End
2017/08/14 改稿
2009/04/18
Backシャルナーク、たまにはふられてみるか……
最初の話しはもっと重かったので、改稿時にだいぶ軽くしてみたのですが……。
アッシー・メッシー・みつぐ君、バブル全盛時に流行った言葉。今は懐かしい死語となりました。あのころは、この三文字が男性のステータスだったとか。ほんまかいな！？女性に高額なおごりが出来る財力があるという意味らしい。今になっては虚しい言葉。