「ヒソカ！今日は私の誕生日よ。何か頂戴」
「ボクが？何のために、キミに誕生日プレゼントをあげなきゃいけないんだ？」
ふくれっ面でボクを見上げるに、首をかしげながら訊いてみた。
確か去年も同じ会話をしたような……
あえて言うなら、今日はボクの誕生日でもある。
そのことはも知ってはいるとは思うけど、それについてのお祝いの言葉はないようだが。
もちろんプレゼントだってくれる気配はない。
自分だけ誕生日プレゼントを貰おうなんて、なんてずるいんだ。
だいたいボク達の関係は、誕生日プレゼントをやりとりするような関係でもないはず。
２０１０年 ヒソカ誕生記念
「分かったよ。それなら軽い食事に誘うから、パパに断わっておいで」
「パパに！？私はもう１６歳の大人よ。いちいちデートするのに、パパに断わる必要なんてないと思うけど。それにパパは、昨日からＴＶの仕事で帰ってくるのが深夜なの。だから私の誕生日は、一日遅れで明日やるのよ」
のデートという言葉に面食らう。
見上げて来る青い瞳が一瞬寂しげな色になるが、ボクの腕に細い腕を絡ませしな垂れかかる。
しかも柔らかな胸を腕に押し付けてくるではないか。
小娘のくせに、どこでそんな挑発的なことを覚えてきたのやら。
１６歳になったは自分のことを大人と言うが、その大人がパパではね……
せめてお父さんと言って欲しいもの。
身体は大人でも、世間一般ではまだまだ子供の域を出やしない。
だからボクはわざとキミのためにパパと呼んだのだが、その真意が伝わらない。
だからキミは子供なんだ。
の父親は人気のＴＶ司会者。
４０代前半のナイスミドルで、一人娘のを男手一つで育てている。
母親は子役の頃から名女優と呼ばれた女だが、子育てには関心がなく、熱愛の上結婚したが、を生むと２年ほどで離婚してしまう。
父親は当時売れないコメディアンだったらしいが、まじめな子育てぶりが女性達に指示され、今では好感度ＮＯ１のＴＶ司会者。
おかげで仕事は忙しく、はここ数年、近所に住む父親の妹に面倒を見てもらっている。
売れっ子になったことで娘との接点が減り、父親として気にはしているようだが……
そんなとボクが何故知り合いかと言えば、幸か不幸か家が隣同士なのだ。
交通の要所として知られるこの街は、どこへ行くにも足の便がいい。
経済と商業の拠点でもあるくせに、前は海、後ろは山の自然環境にも恵まれている。
それらの理由から、４年前に新築物件として売り出されたこのマンションの一部屋を購入した。
だがこの棲み処で生活するのは１年に３ケ月程度。
青い果実と熟れ時の果実を求め、ボクは世界を駆け巡る♪
昨日２ヶ月ぶりに戻り、これから昼食を食べに行こうと玄関を出たところで、隣家の一人娘に捕まってしまったのだ。
「。キミは、ボクの行動を見張っているのかい？」
腕にしっかりと絡みつくの目を見ながら訊ねる。
マンションの共用廊下で壁に寄りかかり、実にタイミングよくがボクのことを待っていた。
しかもいつも以上にお洒落をして。
因みに去年も同じパターンだったはず。
イヤイヤ、一つだけ大きな違いがある。
腕に押し付けられた胸は、去年より更に膨らみを増していた。
そのうえ弾力も中々のもの。
ボクが腕に当たる感触を確認していると、
「見張っているわけじゃないけど、ヒソカって、毎年今頃、必ず家に戻ってくるでしょ」
けろりと言うは、さもと言いたげだった。
確かに普段は不定期だが、６月だけは確実にここへ帰って来る。
その理由は簡単。
ボクは移動の時はホテルを使うが、それ以外では女の家で寝泊りすることが多い。
馴染みのセフレ、現地調達のセフレ等。
ルーズに生活するには、まめな女のところにしけこむのが一番。
身の回りの世話をかいがいしくしてくれるし、手ごろに性欲処理も出来る。
女にとっても見栄えが良く金廻りも良い男で、しかもセックスが上手いとなれば、これ以上の者はないはず。
だが長いは禁物で、特に誕生日などというものを一緒に祝ってしまうと、どこかにあった壁が崩れてしまう。
特別な日を共に過ごすことで親近感を増し、自分は特別な存在なのだと女は勘違いを起こす。
こうなると大変だ！
所有欲が鎌首を持ち上げ、それまでさらりとしていたセフレの関係が、独占欲の権化へと変わる。
早い話しがずうずうしくなるということ。
ボクにとってセフレはセフレであって、恋人にはなりえないのだ。
セフレだから気安く付き合えるという美味しさで、互いの関係は成り立っている。
なので変な勘違いを起こされても困るので、相手の誕生日を祝わぬかわりに、自分の誕生日も祝わっては貰わない。
だからボクは６月になると、ここへ戻ってきて１ヶ月を過ごす。
基本、この家に女を連れ込むことはなく、ボク１人だけの自由気ままな生活となる。
ボクはここでの女断ちの生活が結構気にいっている。
何故って、一時的に女を断つことで身体は飢餓状態となり、解禁された時にセフレとのセックスで、より強い快感が得られるから。
親子とは引っ越してきた当時、近所のレストランで知り合った。
父親とは妙に馬が合い、互いの家で酒を楽しんだり、が寝た後にバーへと繰り出す関係。
互いにプライベートなことは詮索しない。
ボクの知る彼のデーターは、週刊誌で知る程度のもの。
その代わり、彼の話す多方面に渡る趣味の話しが面白い。
特に興味を持ったのは、彼の格闘技に対する知識と裏の顔。
マフィアの中でも最大勢力を誇るファミリーの幹部であることを、ひょんな会話で知ってしまう。
彼が所属する芸能プロダクションは、マフィアの系列に属していた。
彼もまた、ボクに闇の部分があることに気が付く。
互いに感じ合うものがあり、意気投合したのは当然の成り行き。
そこを足がかりに、以前より接点を持ちたかった幻影旅団の情報を、の父親がもたらしてくれる。
そして旅団のルールどおりメンバーの一人を倒し、ボクは晴れて幻影旅団のNO４となり、以前より戦いたかった団長との勝負のタイミングを窺っているわけだ。
もちろんは父親がマフィアの幹部であることも、ボクが世間を騒がす幻影旅団の団員であることも知らない。
は知り合ったころからませた女の子だった。
両親から美を受け継いだ少女で、何かと人の関心を買いやすい。
父親は目に入れても痛くない可愛がりようだが、躾けるべきところは厳しく躾けていた。
子供のくせに大人の話しに割り込もうとすると、父親はぴしゃりと叱る。
だがそんなことにへこたれるようなではなく、ボク達の会話に必死に混ざろうとする。
そしてやたらボクに纏わり付いてくるのだが、ボクにロリコンの趣味はないし、下手に子供の機嫌をとる気もなく、とは適度に距離をとっていた。
だがの家を訪ねて来る父親の取り巻き連中は、人気司会者に気にいられようと、娘にまでおべっかを使っていた。
もしくは娘そのもに気にいられたいらしく、プレゼント攻勢をかける。
そんな中で、ボクはに媚びることなくフランクに接していたことが、逆にの関心を買ってしまったらしい。
ボクにとっては単なる隣家の娘でしかなかった。
幾度となく訪れたの家。
内容は忘れたが、何かの会話でボクとの誕生日が同じであることを知った。
「ヒソカ、今日はご馳走様。楽しかったは」
の父親からOKを取り、ボクとは近所のレストランで昼食を食べ、世間話し程度にとの会話を楽しんだ。
有頂天のを自宅へと送る。
自宅と言ってもコンクリートの壁一枚を隔てた隣だが。
は玄関の鍵を開けることなくボクの顔をじっと見つめ、先ほどとは打って変わった表情で、思いつめた言葉を口にした。
「……私から、ヒソカへの誕生日プレゼントがあるの」
「プレゼント？それは嬉しいね。で、何をプレゼントしてくれるというのかな？」
「……なら、私をヒソカの家に入れて頂戴」
ボクは口元だけに笑みを作り、
「プレゼントなら、ここでも渡せるだろ？」
「……」
押し黙ってしまったに、早く自宅へ入るようにと目で促すが……
「ヒソカ！ヒソカの家に私を入れて頂戴！私は一度だって、ヒソカの家に入ったことがないのよ」
そう、ここに居を構え４年……ボクの家に入ったのは父親のみ。
父親もを連れてくることはなかった。
その意味を、キミは分かっていないのか？
悲痛な声を出しながら、はボクの胸にしがみついて来る。
「私、初めてヒソカと出会った時から決めていたの。ヒソカの彼女になるんだって。同じ誕生日だと知った時、運命を感じたの！けど、まだ子供だからと我慢していた。でも私はもう１６歳。十分に大人の女でしょ！？同い年の女友達はみんな彼氏を作り、もう経験済みよ。私なんて遅いくらい。去年だって、ヒソカは私を家に入れてくれなかった。でも今年は！」
感情が爆発し、堰を切ったようにがまくしたてる。
「私の初めては、ヒソカにあげると決めていた。だってヒソカに一目惚れで、好きで好きで堪らない。だから２人の誕生日を特別な日にしたいの。来年までなんて、とても待てない！今、ヒソカが欲しいの」
情熱的な叫び、否、一方的な叫びが共用廊下に響く。
この最上階には２軒しかないからいいようなもので……
目を瞑り、顎を上に向けるのぽってりとした唇は、グロス以上に濡れていた。
名女優と呼ばれた母親の濡れ場を彷彿とさせる、色気に満ちた艶っぽい表情。
いくらボクが今、飢餓状態に入りつつあるからと言って、に性欲を感じるほど余裕がないわけじゃない。
もちろんより若い女の子との経験は幾度となくあるが、出会った１２歳の頃の姿が頭の中で止まったままのに食指は動かない。
たとえ１６歳の瑞々しい裸体をさらされたとしても、ボクの下半身はズキュンとはなってくれないだろう。
仮になったとしても、父親との良好な関係を崩す気にはなれない。
の気持ちに気が付かないわけではなかったが、面倒なことに巻き込まれるのは御免だった。
「、キミは恋に恋しているだけさ。だからもっと自分に合った男を選ぶべきだね。ボクにとってキミは隣家の娘でしかないのだから」
はっきりと、思いやりを籠めて引導を渡す。
は瞑っていた目を大きく見開き、みるみるうちに涙で溢れさせる。
次の瞬間、背をいきなり伸ばしたかと思うと、鋭くボクの頬を平手打ちにした。
そして身体を翻し、バックの中からキーホルダーがたくさん付いた鍵を取り出し、ガチャガチャと鍵を開けて自宅に姿を消してしまう。
ボクも口の中に鉄の味を感じながら、玄関の扉を開けた。
しばらく分厚い壁の向こうから、物の壊れる音や、泣き叫ぶ声が微かに聞こえていた。
父親が深夜に帰宅したら、何事かとさぞかし驚くことだろう。
女とは、なんと強い生き物だろうか……
数ヶ月後、には一つ年上の彼氏が出来ていた。
父親の機嫌はかなりよくないが、ボーイフレンドが近所の運河に浮かぶことはないだろう。
今では以前のように、気軽にボクのことをヒソカと呼ぶ燐家の娘は、有り余る輝きを放つ。
それは少女のものではなく、女としての艶やかな輝き。
ちょっともったいないことをしたかとも思うが……
６月６日に囚われて……
それは単なる偶然で、縛られるようなものではなく、縛るようなものでもない
だから自由気ままに奔放に、生きて行きたい方向に舳先を向ければいいだけのこと
End
2018/05/27 改稿
2010/06/06
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