「クックッ、まったく……頭がよ過ぎるというのも考えものだね」
堪えていた笑いの堰が切れ、ついに馬鹿笑いを始めてしまう。
あまりの可笑しさに、涙が零れて来る。
ボクの人生で、こんなに笑ったのは始めてだ。
おかげで腹の皮が捩れてしまう。
大笑いの原因は……
ボクの家の中で、むっちりとした豚が数頭駆け回る。
こんな原因を作った張本人はぶすりとし、三白眼でボクを睨んでいる。
「、そんな顔をするなよ。あまりにキミのやることが可笑しくて、ヒッヒッ……」
ついに笑い過ぎ、喉が張り付き声にならない。
それでも腹を抱え、ベッドの上で笑い転げていた。
はそんなボクを見て、
「失礼だは、何もそこまで笑うことはないでしょ！私だって一生懸命やっているのよ！」
ボクの笑いに憤慨し、は顔を赤くして怒る。
握りしめられた拳を震えさせ、こめかみをピクピクさせる。
「もういい！私、帰る！」
はソファーに放り出してあったバックと上着を手にする。
「待てよ！」
少し笑い過ぎたかと、ベッドから跳ね起き彼女を追いかける。
玄関の扉を開けようと、ドアレバーに手を掛けたの前に回りこむ。
「悪かったよ、。真剣に修行するキミを笑ったりして。謝るから、機嫌を直しておくれ」
ボクは必死に笑いを堪え、の怒りを鎮めるため、優しく抱きしめようとした。
しかしその腕を、はするりとかわす。
クッ……こんな時だけは、動きが良いのだから。
これだけの切れがあれば、とっくに念能力はマスター出来ているはずなんだけどね。
「そこをどきなさいよ、ヒソカ！私、もう念の修行なんかイヤ！念能力者なんかなれなくても、今のままで十分!」
「分かったよ。もう念の修行は強制しないから、機嫌を直して」
今度は逃げられないようにしっかりと壁に押さえ付け、不機嫌な顔に口付ける。
は賢い。だから全てを頭で考えてから行動に移そうとする。
だが頭で理解しても、身体を上手く反応させることが出来ない。
そこから生まれてくる苛立ち。
理解と実行は、それほど一致するものではない。
理由が分かっているだけに、のストレスはかなりのモノ。
だが最初は至って順調だった。
基本の四大行はあっという間に習得し、次のステップへと進む。
ここまでは、理論的に考えられる人間の方が、到達するのが早い。
何気に話した念能力に、付き合っている が興味を持つ。
それならと、ボクはに念を仕込むことにした。
に戦闘的な念は不向きと、除念を身に付けさせようと考えた。
レアな除念師がボクの身近にいれば、何かと都合がよい。
『水見式』で確かめた結果、水の中に不純物が出現し、彼女が具現化系であることが判明した。
従って、特質系であるべき除念師は諦めるしかない。
仕方なく、具現化系の修行を始める。
まずは具現化する品をは選ぶ。
選んだモノは鞭。
しなやかで、意のままに操れる武器。
具現化系の人間にとって、アイテムを具現化することは難しい。
何故ならば、出現させると同時にその品に、自分の道具としての意味を持たせねばならない。
ただし一度具現化に成功すれば後は簡単だ。
しかしは幾ら鞭のイメージを作ろうとしても、目的の鞭が現れない。
出現するものは縄やホース、はたまた生きた蛇。
肝心の鞭を避けるように、細くて長い物ばかりが現れる。
こんな状態が一ヶ月も続いていた。
そして遂に今日、鞭ならぬ『むちむちした豚』が現れた。
むち繋がりの冗談か！？
それとも鞭の材質を考え、牛の皮から豚の皮へとイメージが膨らんでしまったのか。
まったくもってイメージの貧困というべきか、多彩なイメージというべきか……
これを笑わずして、何を笑おう。
落ち着きを取り戻したに、
「よく言うだろ、賢者は長い耳と短い舌を持つと。キミは賢過ぎるんだ。全てを理由付けで考えようとする。念においてイメージというのは考えることじゃない。むしろインスピレーションに近いモノ」
レリア はボクの話しを長い耳で聞き、素直にこくりと頷く。
「だからも、アイテムを難しく考えないで、瞬間的にどう使いたいかだけをイメージすればいい」
ボクはそう言って、の頬から耳へと唇を這わせ、柔らかくふっくらとした耳朶を甘く噛む。
更に首筋へと口付けを移動させれば、の呼吸が徐々に乱れてゆく。
ボクは気分良く、何気に視線を落とせば、の手には鞭が握られていた。
「クックックッ、おめでとう。やれば出来るじゃないか。その鞭で、誰を打つ気だったんだい？」
ボクは期待を籠めて訊ねる。
「もちろん、ヒ・ソ・カ」
は短い舌で答える。
裏切らぬ答えに、ボクはにんまりと笑う。
さぁ、鞭の使い方を学ぼうか。
もちろんボクは身を持って、への協力を惜しまない❤
でもボクの好みとしては、長い牛追い鞭よりも、短い乗馬用の鞭の方が好きなんだけど……
End
2018/02/07 改稿
2007/11/28 加筆・修正
2007/04/30
Backこれで、ヒソカの性癖が若干分かったような気がします。