警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
「何か意見がある時は、高く挙手して欲しいんだけど」
にんまりと笑いながら目を細めるヒソカはエロティックで……美しい魔物のようでもあり、ちょっと怖い。
口では人権を尊重するようなことを言うけれど、後ろ手に縛られている時点で人権なんかありゃしない。
そもそもどうやって、この状態で挙手しろって！？しかも、高く挙げろって！
この男、無理難題という言葉を知らないのだろうか？
それとももしかして、意見でなければ挙手しなくてもOKということか？
ここで怯んだらヒソカの思うつぼ！だから強く言うんだ！頑張れ私！！
「ヒソカ！これは命令よ！早く、私を解放しなさい！悪ふざけも程々にしないと、本気で怒るわよ！」
凜と言葉を発し、キッとヒソカを睨みつける。
「 、ボクに命令かい？キミがボクに命令する権利はないんだけど。でもキミの本気ってやつは、是非一度見せて欲しいものだね」
ヒソカはそう言いながら、ベットと見間違えそうなほど大きなソファーに投げ出された、私の横に腰を下ろす。
さすが高級ソファー、身長１８７センチ、体重９１キロのヒソカが座ったくらいでは、クッションが緩く沈むなんてことはない。
まったくもって、我が家のチープなソファーとは大きく違う。
って、暢気にソファーの感想を言っている場合じゃない！
ともかく反撃しなきゃ！
出来るものなら上半身を起こし、この状況を打破したかった。
だが後ろ手に縛られた状態から、腹筋だけで起き上がるほどの筋力を、私は持ち合わせていない。
「だいたい何の理由があってこんな酷いことするのよ？」
再び顔を凜とさせ、身体はソファーに横になったまま、毅然と訊ねる。
するとヒソカは再び口元を上げて笑う。
しかもその顔は、ぐいぐい迫るに迫って超どアップ！
「理由？ キミがすぐにボクから逃げようとするからさ。３回に２回は逃げるだろ。だから今日は逃げられないようにと思ってさ。昔から言うだろ、『先んずれば人を制す』って」
へぇ！私はそんなことで捕まってしまったの！確かに最近は、３回に２回は逃げるけど。
でも逃げないことには掃除洗濯に、食事の準備がまともに出来やしない。
人の都合も考えず、四六時中ナニを迫るヒソカが悪い。
お前はサカリの付いた犬か！！
しかもサカリのついた犬は、当然のごとく時間と場所を選ばない。
例えば私がバルコニーで洗濯物を干していれば、背後からヒソカが忍び寄る。
そして有無を言わさず後ろから……
バルコニーの立ち上がりがフェンスでない事をいい事に、胸から下を外から覗かれる心配がないと、バルコニーの立ち上がりに押し付けられ、朝からやりたい放題。
張り出したバルコニーの下を歩く、同じマンションの親子連れに声を聞かれまいと、私は必死に声を抑える。
それを面白がって、ヒソカは更に突き上げる。
それにトイレを掃除していれば、やはり後ろから羽交い絞めされ……。
掃除したばかりの便座に座るヒソカの上に、私は無理やりスカートを捲り上げられた状態で、有無を言わさず腰掛けさせられる。
用意周到なヒソカはいつだって下半身が剥きだしで、そのうえズキュンときている。
しかし一番腹が立つのは、ガンとして拒否出来ない私……
耳を甘噛みされようものなら……言葉だけが頼りなく抵抗する始末。
まるで私を弄んでいるかのようだ。
そして私が逝ったのを見はらかい、ヒソカも昇天なさる。
ヒソカの激しさに、たいていの場合はその場で腰砕け。
私は疲れた身体に鞭を打ち、何とかやりかけの仕事に戻るが、体力を余したヒソカときたら……
エネルギー補給であれが食べたいこれが食べたい、ここにゴミが落ちている、あそこに埃がついている。
私を家政婦のごとくこき使い、家事に対する要求が多すぎる。
お前は鬼より怖い小姑か！
ならば私が家事の最中は、大人しくしてろ！邪魔するな！
やたら広いヒソカのマンション。
部屋数だって、かくれんぼが出来るほど多い。
それなのに、何故かヒソカはメイドもハウスキーパーも雇わない。
ハンターのうえ、２００階クラスの実力を持つヒソカなら、金は有り余るほど持っているはずなのに。
おかげで家事仕事は、もっか付き合っている私の細腕に任されている次第。
けっこう家事を真剣にやると、疲れてしまうのだから、少しは私を労って欲しいもの。
ヒソカはいいよ……人に指図するだけだから。
夜の要求だって、するだけすれば気持ち良さそうに寝てしまうし。
しかも人のことをしっかり抱きしめてくれちゃってさ……
まっ、これはこれでヒソカの愛情表現だと思い、嬉しいけれど。
だけどさ……
私はヒソカが目を覚まさないように、抱きしめた腕にゆるゆると隙間を作り、静かに腕の中から抜け出し、脱ぎ散らかした服をかき集め、洗濯機に放り込む。
丸められたティッシュで一杯になったベッド横のゴミ箱を、赤くなりながら片付ける。
そしてベッドの前に一戦あった風呂場を綺麗に掃除する。
そう言えばこの間は料理中、『だめだって！料理中なんだから』って拒否しているのに、流しに押し付けられ、これまた後ろから……
料理していたばずなのに、私がヒソカに料理されてしまう。
いつだって容赦はしてくれない。
どうやら彼の性欲は、家事をする女性に刺激されるらしい。
ちょっと変わったヒソカの性癖に、私は振り回されっぱなし。
そして一方的にことが済むと、やっと解放してくれる。
おかげで料理中だったオーブンの中のローストチキンの表面が、すっかり焦げてしまう。
途中で焦げた臭いに気が付いてはいたけど、気持ちよ過ぎてヒソカに、『やめて！』とお願い出来なかった。
せっかくヒソカの大好きなローストチキンを焼いていたのに……
なのに、なのに……ヒソカは嫌な顔もせず、『キミの作ってくれた料理はいつだって最高さ』と言って、パクパクと頬張る。
あんたって、味音痴！？でも、嬉しい。
熱くなってくる目頭を押さえながら、焦げ付いたオーブントレイを、ゴシゴシとたわしで洗う。
私の一週間。
平日は仕事場であるハンター協会に出勤する。
主な仕事はハンターライセンスの管理監視。
その関係で、ハンター協会に用事があって訪れたヒソカと偶然出会い、彼にナンパされた。
ヒソカって、あの可笑しな格好をしていなければ、青年実業家のように見え……まさかの変態奇術師ヒソカだったなんて、彼に抱かれるまで知る由もなかった。
何しろ彼は、私に姓であるモローを名乗っただけだから。
そして金曜日の晩から月曜日の朝まで、私はヒソカのマンションで過ごす。
過ごすと言えば聞こえはよいが、やっていることはセックスつきのおさんどんで、もちろんメインはセックス。
家事全般は嫌いではないし、好きなヒソカのためなら苦にはならないが……
やはりどこかで外出したり、恋人らしく甘い時間があっても良いのではないか。
ヒソカの動物的なセックスだけでは……
決してヒソカのセックスが、自分よがりで野蛮だと言っているのではない。
むしろテクニシャンだし、持続力も抜群で、私の満足度を計算しながらセックスしてくれている。
でもね、回数が……
私はヒソカほど、タフではないのだよ。
確かに私はハンター協会に勤めてはいるけれど、単なる一般人。
その私にタフさを求められても……
一週間、休み無く働く私って、ある意味凄いかも。
既にこんな生活が３ヶ月程続く。
仕事場の同僚には、週明けに出来ている目の下の深いくまに重い足取りを、どうしたのかと心配されてしまうほど。
そりゃそうだ！出勤前の一発と、仕事に行こうとする私を玄関の扉に手を付かせ……
おかげで仕事中に疲れが出て、うつらうつらしてしまう。
私の休日、実のところ休日になっていない。
むしろ疲れを増す休日で……
ふっふっふっ。そろそろ私、限界……ぶっ倒れるかも。
「ところでさ、そろそろボク達……」
意味有り気に、もったいぶりながらヒソカの指が、動けぬ私の身体を這い回る。
彼の唇が、私の唇に触れんばかり。
そろそろねぇ……この後に続く言葉が怖い。
ヒソカさん、私は体力の限界にきています。
お願いですから、恐ろしい事は言わないで。
「 、そろそろ仕事辞めたら？」
へぇ！何を言い出すのかと身構えていれば、ヒソカの顔は信じられないほど真面目。
「 は一週間、働きづめだろ。平日は残業が多いし、週末は俺の面倒みてさ。こんなことをしていたら、いつか身体を壊すと思うんだけど。だからそろそろ、ボク専用になったら？」
「……そ、それって、どういう意味？私、働かないと食べていけないんですけど」
私はごくりと唾を呑み込みながら訊ねた。
「あっ……これ、プロポーズじゃないから。ボクは単に、同棲しないかと言っているだけだから」
はいはい。そんなことは分かっています。
あんたが結婚を望むようなタイプじゃないってことは。
「ボクはほとんど平日は家にいないから、キミはこの家を好きなように使っていいよ。その方が、ボクも安心して出かけられるしね。それとカードを渡すから、欲しい物があれば好きなだけ買えばいい」
ヒソカの有難いお言葉。でもね、
「……なら、仕事をわざわざ辞めなくてもいいんじゃないの？」
確かにヒソカと付き合いながらの仕事はきつい。
でも仕事は仕事でやりがいがあるし、色々な人と出会えて面白い。
それに同僚達とも仲がよく、気持ちよく仕事をしている。
「ボクはね、これでも随分と我慢しているんだよ。仕事で疲れているキミに配慮して。でも仕事を辞めれば遠慮することないだろ。平日は体力を温存し、レリアはボクが帰ってくる休日に備えてくれればいいだろ♪」
それって、愛情ある言葉だと思うけど、何気に恐ろしいことを言っていませんか？
体力温存……休日に備える……と言うか、私を壊す気満々！！
これは絶対に拒否！拒否！挙手なんかしなくてもいい。
足を挙げてでも拒否しなければ！
そんな考えが顔に出たのか、
「クックックッ、キミに拒否権はないからさ」
口角を上げ、威圧的に言うヒソカに、私は恐ろしさのあまりこくりと頷くしかなかった。
それでその後どうなったかと言えば、ヒソカの願い通り仕事を辞め、主婦的生活かと思いきや、普段の仕事の真面目さと有能さをハンター協会に高く評価され、自宅勤務にシフトチェンジ。
おかげで仕事は辞めることなく、通勤時間を無くすことで体力を温存。
相変わらず家事仕事で性欲を刺激されるヒソカは、場所を選ばず家の中で私を押し倒す。
でもあの日から……ヒソカの趣向がだいぶ変化した。
今も私は後ろ手に縛られ……これはこれでけっこう刺激的。
それに最近は、ヒソカが家事を手伝ってくれることが多い。
素肌に直接エプロンをして♪
End
2018/03/17 改稿
2009/04/30 加筆・修正
2008/03/17
Backちょうど１０年後に改稿とは。それなりに書き足し、削りました。