ボクとキミの付き合いは、ボクの自己犠牲から成り立っている。
どうやらボクは、自分で考える以上に気の長い人間のようだ。
それもそのはず。
キミと付き合うには奉仕の精神と我慢がなければ成就出来ないと、ある時から気が付いた。
そんなボクを分析するキミは、自虐的な男だと評価する。
ボクを分析する暇があるのなら、少しは自分を分析した方がいい。
でも、キミのボクに対する評価は間違っていない。
何故って、ボクは自分の目的のためなら自己を傷つけることを厭わないから。
は不幸の種を撒き散らす。
種というよりは苗を育てて花を咲かせ、見事に実が生ったというのに食べもせず、中の種だけをほじくり出して撒き散らす。
それは自分の名入りブランドの種を、道端に捨てるようなもの。
おかげで良質な不幸の種は、しっかりと根をはり見事に育つ。
そして善良なる植物の苗を駆逐していく。
キミには一度、収穫の喜びというものを教えてあげたい。
よく育った果実がどれほど甘く、芳醇なものなのか。
そうすれば、もっと別の楽しみ方に目覚めるだろう。
不幸の種はによって撒き続けられる。
つい最近もボクというものがありながら、他の男と恋に落ちていた。
こんな言い方をしたらが怒るから、恋愛ごっこに興じていたというべきか。
何しろ彼女の言い分は、心と身体を許しているのはボクだけで、他の男には身体しか許していないそうだ。
こんなことはいつものことで、多少の腹は立つもものの、ボクとしては犠牲者になった哀れな男に同情してしまう。
それで今回の犠牲者はといえば、婚約者のいる幸せ絶頂の男だった。
正しくは犠牲者というより生贄か……
たとえ 小悪魔のようなの甘い誘惑があったとしても、それに乗ってしまった男が愚かとしかいいようがない。
最初は慎ましやかにしていた が、さりげなく不幸の種を撒く。
『いいの……たとえアナタが結婚しても、私はアナタだけを想って生きていくから』
落ち着いて聞けば腐った台詞も、大きな目をウルウルさせられたら堪らない。
しかも平均値をはるかに超えた可愛い女の子に言われた日には、脳内ではドーパミングが活火山状態。
これからする俺の結婚は過ちではないのか？目の前で涙している女の子が、本当の伴侶になるべき相手ではないのか？
恐るべき錯覚は肌を合わせることで加速し、の期待どおりの方向へと進む。
当然のごとく婚約は破棄となるが、そうなれば後の祭り。
アナタを好きになったのは一時の気の迷いと、こっぴどく男をふってしまう。
すると当然のように恨み辛みがに向けられる。
自分の愚かさを棚に上げ、逆恨みをした男の凶刃が宵闇を切り裂きを襲う。
『いいこと、ヒソカ。絶対に念は使っちゃだめよ。お姫様は素手で護るもの』
『はい、はい。キミを満足させるならことが出来るなら、そのくらいお安いごようさ♡』
の期待に応えられるよう、少しばかり演出をしてあげる。
素人相手に真剣に戦うふりをする。
の前にはだかり、ナイフを振り回す男の盾となる。
そして避けそこなったふりをして、一、二ヶ所男に切られてやる。
もちろんダメージを受けるようなヘマな切られ方はしない。
上がる血飛沫に、の顔が興奮の色を見せる。
口を薄く開け、濡れた目で戦うボクを恍惚と見ていた。
少しばかりの自己犠牲……
はボクの血を見ると凄まじい性的興奮を覚える。
だからボクはたとえ傷ついても、のためにこの三文芝居を最後まで演じてやる。
幕切れはいつも復讐者の絶命だ。
キミは不幸の種を撒き、禍という実を育てるのが実に上手い。
でも、禍転じて福となすではないが、ボクにとってこの茶番はキミのご機嫌をとる一番の方法で、人間万事塞翁が馬ということか。
まだボクの傷口が開いているというのに、キミは狂ったようにボクを欲しがる。
だからボクはこのご褒美を、美味しくいただくだけ♡
まさに禍独り行かずのごとく、災難は往々にして一つでは済まず、重ねて起こり易いもの。
もっとも禍も福の端となるで、今は禍であっても時が経てば却って、幸福の糸口に繋がる場合もあるはず。
そうそう、禍も三年置けば用に立つという言い方もあるし。
つまり後一年も待てば、ボクとの間も穏やかになるという意味か。
だがに振り回される日々も楽しく、自己犠牲もやりがいがある。
ただ本当の事故にならぬよう、引き締めるべきところは引き締め、愛おしいに尽くすのみ♡
End
2017/02/06 改稿
2009/04/29 加筆・修正
2008/11/02
Back種は蒔くなんですが、 夢主の場合は撒くかと。
身体しか許していないを許す、ヒソカ的激甘♪歪んだ二人が、とてもお似合い。