指先まで酸素が回らず、彼の背中に回した指先が振るえてしまう
長いキスに鼻で呼吸をするのも追いつかない
口を塞がれ息が出来ないのではなく、酸素を強制的に奪われてしまいそうなキス
なんて情熱的……う、ん、意地悪なキス……
おかげで酸欠になった脳ミソが、思考能力を失わせてゆく
朦朧とする意識の中で、『俺のものになってくれる』って……
断わる理由なんか最初からなくって、私は言われるがままにこくりと頷く
力を失った身体は彼の腕だけで支えられていた
求めていたものは二人とも一緒で、私は安堵した
いつも土壇場で拒むくせに、俺を迷わせるようなことをさり気なく言う。
ならば好きなの？嫌いなのって？『嫌いなわけないじゃない』と、は少し戸惑い気味に答える。
それって、好きの肯定？嫌いの否定？似ているようで非なる答えに、じりじりしてしまう。
もしかして俺との関係は、恋人未満友達以上とでも言いたいの。
俺だけじゃない……
男って、その言い回しにどれだけ傷付くか知っている？
女の子独特な身勝手な言い草に、眉を顰めてしまう。
男にとって未満も以上も存在しない。
どうしてもファジィな関係であるというのなら、恋人未満セフレ以上であって欲しい。
好きだから手を出したい。
好きだから我慢出来ない。
それのどこが悪いのか。
絶対否定ではなく、含みのある否定。
焦点をぼやかす関係に、甘受出来るはずがない。
存在自体が誘惑的で、俺を篭絡させる女の子。
目の前に吊るされた甘い果実に手を伸ばすのは当然のこと。
口にして、初めて果実の本当の味わいを知る。
鼻孔を擽り、鼻の奥へと広がる芳醇な香り。
口内を満たす馥郁とした、まろやかな味わい。
舌先に感じる爽やかな酸味。
指先に感じる弾力のある軟らかさ。
どれをとっても五感に訴えかけてくるものばかり。
果実も食べられることで、より自分の価値に目覚めるというもの。
追えば逃げる。
ならばと俺が背中を見せれば擦り寄ってくる。
常に一定の距離を保とうとする関係に終止符を！
それがかけ引きの一端なのか、天然の行動なのか、試してみる必要がありそうだ。
だからの気持ちを確かめる。
俺の心を玩具にしているの？
またしても、するりと逃げようとしたの腕を捕まえ引き寄せる。
『好き？』と訊ねるよりも……
もがこうとした身体を強く押さえつけ……
必要なのは言葉ではなく、求められていたのも言葉ではない。
直接欲しかったのは互いの心音で、まずは確認し合えばよかった。
を抱きしめ、想いを抑えることなくキスをする。
そう……キスをするだけ。
官能を引き出すために唇を割ることなく、猛る想いだけを柔らかな唇にぶつけていた。
あまりにも単純で、それでいて感情をこめたキス。
装飾された言葉よりも、何百倍も雄弁に語る。
たぶん、にだから出来た口付け。
なんでもっと早く、素直にならなかったのか。
そうすれば、じりじりと身を焦がすこともなかった。
だから素直に言ってみた。
唇は触れたまま、『俺のものになってくれる』って。
こくりと頷いた顔が上気して、昂ぶる気持ちがに飲み込まれてゆく。
俺に重みを預けてくるをしっかりと抱きしめ、何度もの名前を口にする。
柔らかい重みが心地よく、愛情という重みに代わってゆく。
End
2018/02/04 改稿
2009/05/14
Back少しはがゆい関係。基本は腹黒だけど、たまには甘目のシャルもいい。