警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。なお暴力的な表現は有りませんが、タイトルどおり昆虫ネタです。昆虫の苦手な方も避けられた方が無難ですが、主題はラブです。
二人で眠るには狭いベッドで、俺はにぴったりと寄り添っていた。
彼女の細い肩に背後から顔を埋め、心地よい疲労感と擽るような肌の香りを楽しみながら、ふいに訊ねた。
「知ってる？カマキリってさ、メスがオスを食べるんだ」
俺は少しだけ眉間を寄せ、目の前の金色に輝く絹糸を指に絡めながら言う。
「こわ～い。でも、どうして食べちゃうの？」
都会育ちでカマキリなんか一度も見たことのないが、素朴な質問をしてきた。
絹糸を絡めた指をゆっくりと手元に引けば、滑り落ちるように解けてゆく。
なんて綺麗で滑らかな髪なんだ・・・
「もちろん栄養をつけるためさ。メスはたくさん卵を産まなきゃいけないだろ。だから餌として、オスを頭からがつがつと食べちゃうわけ」
「やだ～、それじゃあ肝心の子孫が残せないじゃないの」
俺はにやりと笑い、
「だからオスも必死さ。メスが餌を食べている時に、気が付かれないように後ろから近付くんだ。そして背後からそっと交尾をする」
「ウソ～！いくら食事中だって、後ろからされたら気が付かないわけないじゃない」
たかがカマキリの話しに真剣な声で答えるものだから、思わず可笑しくなって噴き出してしまう。
「フッ、人間じゃないんだ。何も後ろから交尾されたからって、感じているわけじゃないよ」
そう言いながら後ろからを抱きしめ、腕に少しだけ力を籠める。
そしてふざけるように、再び硬くなり始めた下半身を彼女に押し付けた。
すると、『いや～ん、シャル』と拒絶するくせに甘い声を出す。
「でもさ、中には交尾している最中にメスに気が付かれてしまうドジな奴がいて、そんな時は容赦なく食べられてしまうんだ。つまりメスにとってオスは、最初から餌でしかないのさ。でももっと哀れなのはメスに上半身を喰われても、必死に残った下半身を動かして目的を遂げること」
「信じられな～い。なんてけなげで可哀想なオスの一生なの」
「でもそれが自然の摂理で、生きて交尾に成功したとしてもオスはすぐに死ぬんだ。メスだって卵を産めば数日で死んでしまう。どう転んでもカマキリの寿命はワンシーズン限りということ」
「悲し過ぎる～。それじゃあ、何が楽しくて生きているの？生きている意味がないじゃない。」
はいたってカマキリのオスに同情的だった。
「俺、カマキリに生まれなくてよかったよ。に食べられたくないからね」
そう言うと完全に回復した己を、突き出していた彼女の尻に宛がい、まだとろりと蜜に潤う彼女の中へ滑りこませようとした。
「だめ～シャル。さっき、散々やったじゃない。わたし、まだ疲れているんだから」
そう言うなり腰を前に引き、俺の交尾から逃れようとする。
おかげでちょっとだけ蜜口に入り込んでいたのに、俺は哀れにも抜け落ちてしまった。
『はァ～』思わず口を吐いて出る長い溜息。
「分かったよ・・・じゃあ、一度寝てからね」
つれない態度のは、あっと言う間に深い眠りの世界に落ちてしまう。
まっ、しょうがないか・・・が言うとおり、仕事が忙しくて久しぶりに会ったせいで、を壊わすのではないかと思うほど愛してしまった。
密着していたはずの二人の間には、逃げたことによって出来た虚しい空間。
彼女の白くて艶めかしい背中が露わに見える。
思わず背骨に沿って指を這わせたが、疲れきったネオは何の反応も示さない。
ほんの少し前まで、喘ぎ、艶めかしい姿態をさらしていたのに・・・
俺は再び溜息を吐き、頭まで布団を被った。
の軽い寝息を聞きながら、案外とカマキリのオスはメスに食べられ幸せなのかもしれないと思った。
ある意味、究極の一体化ともいえる。
カマキリに心があるかどうかは知らないが、身も心もメスに与え、自分は子孫を残すための糧となる。
自分の身体の倍以上あろうかというメスは振り返り、せっかく背後に飛び乗って交尾を始めたというのに、彼女の巨大な鎌に押さえ付けられる。
ライムグリンの大きな目に見据えられ、有無を言わさず頭から食べられてゆく。
それでもオスは交尾を続行し、頭、胸、上半身と順番に食われ、最後は生殖器のある尻の部分だけになっても数時間に及ぶ交尾を続ける。
喰われることの覚悟というよりは、喰われること前提の交尾。
俺には命をかけてまでの交尾なんか絶対に出来ない・・・しかも子孫を残すためだって。
と考えながらも、ベッドの上では完全にに支配されていることに気が付く。
否、支配されているというより、の希望する形に持っていかされている。
見せかけの優しさによる自分本位なセックスではなく、が望んだことに対して全て応えている。
確かに壊しそうになるほどやりまくったが、がおねだりしたメニューに対してパーフェクトにこなした結果だ。
喜悦を全身で表すネオに、俺も満足を全身で感じている。
オスの倍以上大きいカマキリのメスとは違い、腕の中にすっぽりと納まってしまう小さなの身体。
蜘蛛の種類によっては、交尾が済めば自分の身体の倍あるオスを食べてしまうメスがいる。
交尾後去ろうとするオスを、背後から強力な糸で絡めて動けなくする。
油断したところを後ろから襲うなんて、むしろ大きな身体のメスカマキリに正面から襲われるよりも怖いかもしれない。
どちらにしてもその瞬間、オスは交尾の対象から餌へと替わる。
の滑らかな背中を触りながら考えた。
はどちらかと言えば蜘蛛だろうか・・・
そう考えた瞬間、俺の背中の蜘蛛が疼く。
摂理なら・・・俺もに喰われるのが運命か。
命を運ぶと書いて運命。
耳の奥に語尾を延ばした舌足らずの甘い声が蘇る。
全身が溶けてしまいそうな感覚に、既に蜘蛛の糸に絡め取られている自分に気が付いた。
その証拠に・・・君になら、喰われてもいいほど・・・愛してる。
End
2017/02/17 改稿
2009/05/02 加筆・修正
2007/11/05
Back子供のころ、一回だけカマキリが共食いをしているのを見てしまい、大ショック！思い起こせば、交尾中のオスだった。未だに尾をひいている・・・・・