の望みどおり、街一番の高級ホテルを予約した。
そしてたってのお願いでもある、街を見下ろせる最上階のスイートルームを指定した。
は部屋に入るなりその豪華さに圧倒され声を失ったものの、次の瞬間興奮へと変わる。
歓喜雀躍、広い居間の片隅に設置された煌びやかなホームバーが目に飛び込み、歓声をあげながら駆け寄り、美しく磨き上げられたグラスが収まる飾り棚の扉を一枚一枚開けて中を確認する。
ワインセーラーに収まったワインの銘柄に感嘆の声をあげるが、それは有料だからと小さな声で に教えてやった。
何せ派手にワインのコルクを開けられた日には、数本でちょっとした車が買えてしまう代物ばかり。
悪いけど、君にそこまで資本をかけるつもりはないからと、心の中で俺は呟いた。
冷めている俺とは逆に、 の興奮は収まらない。
サウナが付いた総大理石張りのバスルームに、自分の借りている部屋より広いと大感激。
壁に埋め込まれた操作ボタンをやたら押すものだから、低温サウナのミストが噴き出してきたり、四方八方からボディシャワーが降り注ぐありさま。
それにトイレの横にある見慣れぬビデに、 は便器が二つあると不思議がる。
俺は にビデの説明と使い方を教えてやった。
俺だって流星街から外に出るまで、ビデの存在を知らなかった。
そして俺達にとってメインであるベッドルームはと言えば、さすが街一番の高さを誇るホテルの最上階だけあって、最高の見晴らしだ。
床から天井まで、１枚板のガラスで作られた窓の向こうに摩天楼を見下ろす。
まるで天下を取ったような気分にさせてくれる。
窓越しに佇む俺は の行動を注視する。
相変わらず は部屋の豪華さにはしゃぎ、落ち着かない。
クローゼットの扉を開けてみたり、ベッドの上で飛び跳ねたりと、まるで小さな子供のようだ。
しばらくして興奮も収まったところ、さり気無く訊いてみることにした。
「 ……どうしてクロロではなく、俺を選んだの？」
クロロに落ちそうになっていた は、最後の最後で俺を恋人として選ぶ。
「……クロロだと、火傷しそうで怖かったから」
それって、俺なら深入りしないで縁が切れるということ？
自分有利に恋愛が進められるとでも思ったの？
それともこの場限りの関係で終わらせるつもり？
あまりにも素直な返事に苦笑した。
……君はまだ、本当に危険な男というものを理解していない。
そして低温火傷の本当の怖さに触れてはいない。
触れて熱ければ、子供でも近づかないだろう。
常に熱を発散させているようなクロロであれば、最初から危険を感じる。
だがその危険が売りで、吸い寄せられるように女の子が集まってくる。
逆に のように、ぎりぎりで熱の危険に気が付き、ブレーキを踏む娘もいる。
でも残念……熱は外に発散されるだけとは限らない。
内側にこもる熱もあるってことを。
「…… 」
限りなく彼女の名前を優しく呼んでやる。
シチュエーションとしては最高だろ？
窓の外は沈む太陽で茜色に染まる。
一つになった俺達が、寝室の赤い絨毯の上に長い影を落とす。
すでに自分の内部の熱に魘されるように、目を潤ませ俺にしな垂れかかってくる 。
「好きだよ、 」
再び名前を口にし、身体の奥深くに火を入れるお呪いを唱える。
同時に、崩れるように膝を折る の身体を抱き抱え、儀式の褥へと運ぶ。
低温であるがゆえ、人は火傷していることになかなか気がつかない。
皮膚の表面に軽い違和感を感じた時はすでに手遅れ状態。
薄っすらと赤くなった皮膚表面よりも、表皮内部をじっくりと焼き、取り返しのつかない損傷を生み出す。
安全だと思った熱さが油断を生み、後からじわじわとダメージが効いてくる。
もしも が結婚するかもなどと嬉しそうに言わなければ、ただの可愛い幼馴染の で済んでいたものを。
俺とクロロで君を獲り合うことも無かったはず。
人のモノほど欲しくなる。
人のモノほど飽きやすい。
手に入れるまでの過程が楽しいだけのこと。
それもライバルがいればなおさらゲームは楽しさを増す。
の奪い合い……
ライバルがクロロということもあって、最高に楽しいゲームだった。
クロロのあの悔しそうな顔といったら……
君はまだ気が付いていない
本当の低温火傷の怖さを
さぁ、君の内部から火を点けてあげよう
ちりちりと、徐々に身を焦がすような熱で
君はせつなく言うだろう
『シャルからは逃れられない』ってね
クロロとのゲームは終わったが、君とのゲームは始まったばかり
End
2017/02/17 改稿
2009/05/02 加筆・修正
2007/11/05
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