警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
淡々と状況説明をしている。
別の表現では言い訳とも言う。
俺に都合よく説明される状況に、は納得してはいなかった。
その証拠に目の前で、未だ鬼のような形相で仁王立ちだ！
もっとも泣き出されるよりは、はるかに気が楽といえる。
たとえ真実を語ったところで、到底受け入れるとは思えなかった。
だからわざわざ、そんな無意味なことをする気も俺にはない。
太陽は高く上がり、街は活動を始めていた。
そんな時間帯に、は予告なくやって来た。
「シャル！これって、どういうことよ！？」
は拳を握り締め、わなわなと震えている。
どういうことって？見てのとおりだが、ここでの事実は単なる現場確認であって、真実の証明にはならない。
なぜならば、証明といえるべき女は、すでに帰ってしまった後だから。
もしもが１５分早く来ていれば、真実の証明になっていた。
目の前の状況が、俺を強気にさせていた。
それに反しは怒りを露わにするものの、心のどこかでこの事実を認めまいとしていた。
その証拠に、それほど怒るなら現場を見た瞬間に踵を返し、帰ればよいだけのこと。
そして二度と俺と会わなければいい。
そうすれば…全てが終わる。
俺は全裸のまま、うつ伏せに寝ていた身体をベッドから起こす。
そしてゆっくりとした動作で胡坐をかき、の顔を見た。
一人で寝るには広いベッドのシーツには、どんなに寝相が悪くても寄らないほどシワが寄っている。
しかもいたるところに薄いシミが残る。
上掛けのカバーも外れ、床に落ちていた。
ゴミ箱にうず高く捨てられたティッシュの山が、昨夜の激しさを物語る。
とどめは部屋に籠る、情事特有の臭い……
「酷い、シャル！私という者がありながら！」
が、わりと定番な台詞を口にする。
「 、何を言っているんだ。俺が何をしたっていうんだよ」
「何を！？よくも、しらじらしいことを！これだけ証拠が揃っているというのに！」
「証拠って！？何の？」
さぁ、言えるものなら言ってごらん。
君にその勇気があるのなら。
来ることを事前に知らせておいてくれたなら、何もこんな不愉快な思いをしなくても済んだものを。
突然の訪問で、俺を驚かせようとしたことが、 にとって裏目に出てしまう。
はぐっと喉を詰まらせ、言い返すには少し弱い口調で言い返す。
「見れば分かるじゃないの……」
そう、目に見えるものは真実のみ。
だから俺は言う。
「シーツが乱れているのは、ベッドの上で朝トレをしていたから。だから汗もかけばシーツも汚れるさ。俺が身体を鍛えるのが好きなことは、 も知っているだろ。でも朝からちょっとやり過ぎたから、２度寝していたところ。それにゴミ箱のティッシュの山は……」
がごくりと唾を飲み込んだのが分かった。
聞きたくないのなら、耳を塞いで泣きながら部屋を飛び出せばいい。
それなのに、怒りで震える肩を抑えようと、エリエルはスカートの横で強く拳を握る。
「……ティッシュの山は君をそれだけ想ったから。先週はゴミ出しを怠って、２週間分の想いが溜まってしまったわけ。明日のゴミ出しには出すつもりだった。エリエルが出張から戻る前に、部屋は綺麗に掃除しておくつもりだったけど、まさかエリエルがこんなに早く帰ってくると思わなかったよ。仕事が順調に運んだんだね。連絡してくれれば、飛行場まで迎えに行ったのに」
俺は裸のまま立ち上がり、ベランダに面した窓を全開にした。
心地よく外気が流れ込み、部屋の空気を自動的に入れ替える。
君の見ている前で、どうどうと証拠の一つを隠滅した。
輝く太陽を背に、に問いかけた。
「俺の説明に、まだ納得出来ない？」
今度は君の番。
『見れば分かるじゃない』を立証してみるかい？
俺は無言で問いかける。
君は困った顔をして、けっきょくは黙り込むしかなかった。
それでも君の目は、ベッド横のゴミ箱をチラチラと見る。
中身を見たければどうぞと、俺の目がを促す。
君が浮気の証拠として探し出したいのは避妊具。
ナイトテーブルの引き出しには、俺達ご愛用の避妊具がしまわれている。
その数をが常に確認していることは承知している。
何しろ避妊具を注文するのはの役目。
すぐに数が足りなくなるから、は俺の名前でここに配達してもらう。
俺のこと以外では仕事に夢中のは、避妊には特に気を使っている。
仕事のスキルを伸ばすことに余念のないにとって、現在の状況下での妊娠は望まない。
これは俺にとっても有難い選択だった。
俺がの３週間の出張中、抱いた女は同様に、仕事に夢中の女だった。
時折り溜まるストレスの発散で、生理的に男を漁る。
仕事の合間を縫って付き合う男とは、最大の快楽を得たかった。
だから避妊具なしでセックスをする。
そのために、もっとも効果の高い避妊薬を常に飲んでいた。
おかげで俺は久々に、膜越しに果てるのではなく、直接中に出すという男最大の快楽を味合うことが出来た。
しかも偶然ナンパした彼女は休暇中で、俺の家で３日を過ごす。
肉欲的な時間に、俺達は服を着る暇がなかった。
そしてその名残がゴミ箱に残されたわけだが、肝心の証拠となる避妊具は使っていないので、見付かるはずもなかった。
精液を拭ったティッシュは、弁明の通り自慰行為だと言ってしまえばそれまでのこと。
それにナンパした彼女は実にさっぱりしたもので、俺をセックスするための、その場限りの道具としか見ていない。
だから彼女とは２度と会うこともないだろう。
まさに行きずりの関係と言うやつだった。
クロロが言っていた。
状況説明と言うモノは、１５分以内に相手を説得出来なければ居直れと。
それ以上の説明は時間の浪費。
交わることのない接点を、いつまでも求めるほど無意味なことはない。
とっと諦め、縁の無かったものとリセットした方が賢いと。
女の場合も同じだ。
嫉妬深く、それでいてしつこい女ほど不毛なモノはない。
同じ時間をかけるなら、新たな獲物を狙うべき。
残す時間は５分……４分……３分……２分……
は諦め顔で、
「ごめんなさい、シャル……私が誤解していたみたい」
俺は尽かさず、両手を広げて を抱きしめる。
君が納得などしていないことは百も承知。
「良く言えました。だから君が一番好きなんだ」
「シャルのバカ……」
彼女の細い腕が俺の背に廻される。
他人から見れば、何とうざい関係かと思うかもしれない。
だけど俺達には、こういう付き合い方しか出来ない。
誰に何と言われようと、を可愛く想っているのは本当だ。
そしても俺に不平を言うが、そのことで俺を失いたくはないのだ。
互いを追い詰めたところで、何の利益も得られない。
いつもタイムリミット１分前で出す答えは、の『ごめんなさい』。
……一体何に謝っているのか？
が不本意にも口にした言葉で、俺達の関係は維持される。
心の中では俺だって謝っていた。
『ごめんね、。でも、仕方がないんだ。これが俺の性分だから 』と。
だが素直に口に出せば、俺の優位が崩れてしまう。
けっきょくは、より惚れている方が折れるしかないのだ。
だからどんな状況になろうとも、俺の部屋の鍵をから取り上げる気にはなれない。
俺の鍵を唯一預けられる女性は、一人だから。
End
2018/04/25 改稿
2009/05/02 加筆・修正
2007/12/16
Back実話に基づいて、テーマ提供有り難うございました。クロロ同様にシャルナークも自分勝手ですが、愛情はそれなりに有ります。作品を書いている本人が、うざい！シャルにもっと反撃しろと叫びながら書いていましたが、やはり二人だけの間にある独特の情があるのです。