警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
「……やはりキミは、いい女だったんだね♡」
冷たい大理石の床に横たわる私の顔を覗き込むヒソカの口元が緩む。
どういたしまして……褒めてくれてありがとう。
でも、やはりって……前から私をいい女だと思っていてくれたわけ？
ならばもっと早く、口に出して褒めて欲しかった。
いつだって褒めてくれるのはセックスの時のみ。
それも言葉にせず、クライマックスを迎える時に私の突きだした尻を平手で軽く、パシッ！パシッ！と叩くだけ。
叩かれた私は驚き、条件反射のようにあそこが締まる。
激しくぶつかる肉の音と、背後から聞こえる切なげな声……
そして果てた後、赤く腫れた場所を謝るかのように優しく擦ってくれる。
最初のころは擦るくらいなら、叩かなければいいのにと思っていた。
その意味が『いいよ、最高だよ♪』 って、感極まって叩いているんだってことは、しばらくしてから気が付いた。
愛されているとは思わないけど、少なからず私とのセックスは気に入ってくれているようで嬉しかった。
いつヒソカとこんな関係になったのか、昔のことで忘れてしまった。
何しろ数えきれないほどの女が入れ替わり、記憶するのが億劫だったから。
気に入った女が出来れば音沙汰がなくなり、一夜限りの女に至っては星の数。
おかげで嫉妬のために心が燻り、眠れぬ夜が続く。
いつも繰り返される穏やかならぬ日々。
二度と戻っては来ないだろうと諦めたころに現れ、私の家で当たり前のようにモーニングコーヒーを飲んでいる。
捨てられずにいる、ヒソカのお気に入りのマグカップ……
どうやら彼の中で私のポジションは、２番ということらしい。
１番にはなれないけれど、３番以下になることもない。
気が付けば、何者にも侵されぬ定位置に甘んじていた。
……それで、私のどこをいい女だと思ってくれているの？
「……って、ボクに訊いているんだろ？」
言葉にせずとも表情だけで分かってくれて嬉しいは。
礼を言うために、唇の端を軽く上げて薄い微笑みを作ってみせる。
ヒソカも口角を上げて嬉しそうに笑う。
「そうだね……キミの魅力は我慢強いところ。ボクのことを待てる忍耐力……そしてボクの女関係に五月蠅いことを言わない。でも本当はとんでもない焼き餅焼きさ。」
ヒソカの言う通りだけど、褒めてくれているというよりは、私の性格分析。
私が聞きたいのは私への称賛。
早く口にして……そんなにじらさないでと、霞んでゆく目で訴える。
ヒソカが再び嬉しそうに笑う。
「キミはボク好みのコーヒーを唯一淹れられる女さ。顔だってけっこう気に入っているよ。笑った時にエクボができてチャミーングなんだ。セックスはボクが仕込んだけあって、とても上手だ。それに啼き声がとても可愛い。キミほどボクを悦ばせる女はいないよ。だからセックスの最中に、快楽に飲み込まれ感情が昂ぶった結果、キミの尻を叩いてしまう。するとキミは、ボクのことを好きだとでも言うように、ボクのモノをさらに締め上げる。だから尻を叩く女はキミだけさ」
……私、だけ。
ヒソカの最高の賛辞に涙が出そうだった。
それなのに、塞がれた唇の感触が失われて応えることが出来ない。
一方的に舌を差しこまれているだけだ。
でも口の中はまだ感覚が僅かに残っている。
せめて指先だけでも触れたかったのに、それすら叶わない。
……いやだ……ヒソカの顔が視界から消えてゆく
残された感覚は聴覚だけだったが、遠くに聞こえるあやふやなもの。
それでもヒソカの言葉を必死に聞きとろうと、耳に神経を集中させていた。
「キミがこんなに深紅が似合う女だとは思わなかったよ。素晴らしい。何故もっと早く気が付かなかったのだろう。知っていれば、もっと早くこうしたのに」
ヒソカに褒められ、初めて自分が赤の似合う女だと知った。
ありがとうと声にしたかったけれど、ヒソカによって切り裂かれた喉からは何も発しない。
もう限界……そろそろ私は逝くからさ……バイバイ、ヒソカ ♪
深紅に染まる血の海に私は沈む……まるで赤いドレスをまとっているみたい
開けたまま何も見えなくなった目を、あなたの大きな手が塞いでくれる
永遠とか絶対なんて言葉は信じない。
だから仕事を引き受けた。
だいたいヒソカと付き合う前から暗殺業に携わっていたんだからしょうがない。
私だって念能力者、腕はかなり立つ。
依頼された仕事はヒソカ暗殺で、暗殺者冥利に尽きる仕事。
力は五分と五分、熟した果実の味を試してみてちょうだい。
かなり楽しめたでしょ、ヒソカ……私も楽しかった
本音を言えば、そろそろ二人の関係にけじめをつけてもいいころだと思っていた
「ありがとう……最後までキミはボクを楽しませてくれたよ。
感謝の証に、２番のポジションは永久にキミのものだから。
……１番には先がなく、後は落ちるだけ。
だから２番が最高のポジションなのだと言っているつもりだったのだけど……
それにしてもキミは本当にずるい女だね。
どんなにボクが攻めても、愛しているとも好きだとも言ってくれなかった。
まっ、キミの気持ちは言葉にせずともボクが一番知っていた。
でも、自分独りで幕引きをするなんて……
自由奔放に生きた罪に、罰としてボクに孤独を味わえということか？
でも最初で最期だからおくびもなく言えるキミへの賛辞。
褒め称えん、ボクはあらん限りの賛美を謳う
End
2014/12/17 改稿
2009/03/12 加筆・修正
2009/02/21
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