Matiy 8
警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
蜘蛛とあたしを繋ぐ絆は、最初からあの男しかいなかった。
必要とされたのはあたしの念能力であり、あたしそのものでないことは知っていた。
……見た目は細く、それでいて太い糸。
まるで蜘蛛の吐き出す糸のように、一度捕らえた獲物は逃がさない。
運命のからみつく糸に翻弄され、もがき苦しむ愚かなあたし。
そのくせ蜘蛛の躰の一部であることに、満足を感じずにはいられない矛盾。
寝るだけのために用意された簡易なベッドは二人の営みに耐え切れず、ぎしぎしと悲鳴をあげる。
上になる男はあたしのために最大限の悦びを引き出そうと、楔を浅く深くと打ち込んでくる。
あたしは広く力強い背中にしがみ付き、喘ぎ声を漏らす。
薄い外壁の向こうには、間違いなくあたしの狂った声が筒抜けになっているに違いない。
昼間から漏れ聞こえる善がり声。
外の通りはたいした人通りがあるわけでもなく、どうせこの地区には目の前の男しか知り合いはいない。
聞きたい奴には聞かせてやればいい。
あたしをこんなにも感じさせる男がいるのだと。
どうせここは流星街……まっとうな人間の生きる場所じゃない。
与えられた快楽に身をまかせ、溜まっていた欲望を吐き出す。
女だって男同様に、うつうつと肉体的欲求は溜まっていくのだ。
それを吐き出すことに、何の遠慮があるだろうか。
我慢をして自分を慰めたところで大した解消にもならず、いつしか自慰だけでは発散出来なくなっていた。
だからあたしは求めた。
相手のいることで得られる一時の安らぎを。
「っぁん……、くっ……ふぅ、あっ……っんん」
腰の下に枕を差し入れられ、膝裏を抱え込まれて揺すられていた。
あたしの下半身は男の動きに連動し、勝手に伸縮を繰り返す。
狭い部屋の中にぐちゅぐちゅと、情事特有の水音が聞こえる。
なんて卑らしい音なんだろう。
激しい抜き差しに翻弄され、意識が白くなって行く。
そのくせ薄く目を開け、背筋を反らしてピストン運動する男から視線を外せない。
男のくせに甘い顔立ち。
いつもは鋭い光を宿す黒曜石の瞳が、切ないほど色っぽいものになっている。
滲む額の汗に、さらりとした黒髪がへばりつく。
贅肉はなく、スリムな身体には無駄のない美しい筋肉が付いていた。
腰を前後にさせる度に、腹筋が美しく六つに分かれる。
何もかもが似ていた。
だからこそ、この男と関係を結んだのだ。
ここに行き着くまでに、何十人の男と肉体関係をもったのか。
ほとんどの男とは一晩限りの行きずりだった。
中には数ヶ月付き合った男もいたが、最後は理由なく自然消滅。
「……マチ、凄くいい…悪いけど、俺の方が先に逝きそうだ」
切なく漏らした声が、あいつと似ていた。
顔が似ていると声も似るのだろうか。
骨格が似ているから？
外見が似ているだけではなく、グループのリーダーであることも同じ。
生き方に重なるところが多く、目の前で揺れる顔をだぶらせてしまう。
でも似ているからと言って、あいつが逝く時の顔や声を知っているわけじゃない。
逝かされていたのは常にあたしの方で、あいつはいつだって涼しい顔であたしを観察していた。
膣をあいつの長い指で掻き回され、擦られ……
肝心のモノは一度も与えられたことがないくせに、指と愛撫だけで何度も頂点に昇り詰めさせられた。
疼きという感覚だけが植え付けられ、何年経ったのだろう。
あたしがあいつの手足になってから、あいつは二度とあたしに触れることはなかった。
拒絶という鉄壁のガードに入り込める隙間はないというのに、その壁に必死にあたしはしがみ付いている。
否……離れられないように、呪縛で自分をがんじがらめにしてしまったのだ。
逆を言えばあいつはとうの昔に、あたしを解放していると言うのに。
「っんん！…逝っていいよ……はぁんん、あたしも一緒に逝くから……」
男はよりピッチを速め、腰を捻りながら最奥を突いて来る。
思わず握りしめたシーツを握る手に、白く骨が浮き上がる。
膣全体が痙攣を起したように、強く伸縮をした。
「くっっ！！」
顔を歪めたくせに、快楽を搾り出す喘ぎ声……
膜越しに跳ねる欲望を身体の中で感じながら、あたしも背筋を反りかえし想いを吐き出す。
「っんん！！……クロロ！！」
こんなところで口にしてはいけない名前なのに、口にせずにはいられない。
中の張り詰めたモノがびくんと震えるのが分かった。
あたしの意識はベッドの上で漂い、身体はゆっくりと弛緩してゆく。
引き抜くことなく、男が大きく肩で息を吸いながら崩れ落ちて来る。
「……マチ」
愛おしげに呼ぶ名前。
絶頂を迎えた時に他の男の名前を口にしたと言うのに、あんたはあたしの名前を優しく呼んでくれるのか。
本当なら泣きたいのはあんたのはずなのに、あたしは必死に涙を堪え、上になる男を抱きしめていた。
あんたを欲望の吐け口に利用している悪い女だと分かっている。
それを知ったうえで付き合ってくれている、あんたの寛大な優しさに何度も甘えてしまう。
もしもあいつより先にあんたと出会っていたならば……
それともあたしがあいつの女になっていたのなら……
考えてもしょうがないことから抜け出せずにいた。
現実から目を反らしているくせに、肉体だけは目の前の現実を受け入れてしまう。
ジレンマという名の足枷に縛られて……
End
2018/08/31 改稿
2010/03/28
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