「あのハゲめ！」
新入りのシェラが、怒りをこめて罵った。
ホームのサロンに響き渡るその声に、シャルが言葉を返す。
「それって団長のこと？シェラも口が悪いな。いくらなんでもそりゃ言い過ぎだと思うけど」
「あら、酷いって言うのはウソを言ったら酷いかもしれないけど、本当のことなんだからいいじゃないの！だいたいシャルだって、ハゲって言って団長と答えるんだから、認めているわけでしょ」
「そりゃあそうだけど……でも、まだハゲていないしさ」
「でも予備軍であるのは確実よ。格好つけてオールバックなんかにしていたら、確実にハゲるんだから。だいたい精力有り余っている男はハゲるのよ。シャルだって、その位知っているでしょ」
シャルの奴がぷっと噴き出し、笑いを堪えているのが分かった。
クソ～！人のことをぼろくそに言いやがって。
新入りなんぞに言わせ放題にしないで、もっと否定しろ！
だがシャルは、見事に俺の期待を裏切ってくれる。
「確かに絶倫男はホルモンの関係でハゲやすいって、医学的根拠がある話しだけどね。そういう基準でいけば、絶対に団長はハゲると思うけど」
「でしょ！でしょ！あのエロ男、必ずハゲるわよ。だいたい毎日女をとっ替えひっ替えでさ、色情狂じゃないの！」
俺がどれだけ女と付き合おうと、お前に迷惑をかけているわけではないだろう。
何の筋合いで、泣く子も黙る幻影旅団の団長が、色情狂呼ばわりされなければいけないのか！
人様の自由恋愛に、お前らが口出す権利はないはず！
そう怨言を心の中で言いながら、俺のオールバックが好きだという女のためにしっかりと整えていた髪型を、手櫛を入れて崩す。
シェラの言動がどんどん過激になって行く。
「クロロ＝ルシルフルってさ、もっと懐の大きい男かと思ったけど、あんな器の小さい奴だと思わなかった！」
「シェラも命知らずだね。団長のことをそこまで言うなんて。心情的には理解できるけどさ」
心情的って、もしかして昨日の件を言っているのか！？
確かに……昨日は大人気がなかったことに、俺も少しは反省している。
だが俺の大切なプリンを、しかも三時間も並んで買った一日限定三十個のプリンを食べたシェラが悪い。
今の季節、食する前に十五分だけ冷やして食べるのがベストなんだ。
その僅か１十五分の間に、シェラは貴重なお一人様二個までを、遠慮なく二つとも喰いやがった。
あのプリンを、どれだけ三時のおやつに食べるのを楽しみにしていたと思うんだ！！
共有の冷蔵庫に名前を書かずに入れた俺が悪いと、このバカ女が言いやがった。
普通、自分が買った品でもないプリンを、名前が書いてないからと食う奴がどこにいる。
思わず怒りを爆発させ、他の団員が見ている前で、延々一時間もシェラに文句を言ってしまった。
なんて恨み深い女なんだ。
「でもさ、一週間前の仕事でシェラが大きなミスを仕事でした時、団長は何も言わなかっただろ。しかも無言でフォローしてくれたじゃないか。シェラが一番ミスの大きさを知っているから、わざわざ言わなかったんだよ。だから、あまり団長のことを悪く言うのはよしなよ」
「……」
そうだシャル！お前もたまには良い事を言う。
俺だって涙もあれば情けもある。
ただプリンが絡むと、若干人間性が変わるだけだ。
「こんな話し、俺だから良いようなもので、フィンクスやノブナガだったら、面白がって団長に告げ口されちゃうよ。だからさ……いいでしょ……」
「あっ、だめ……だめよシャル……うっ」
何だ！シャルの奴、こんなところで始めやがった……
「だめだったらシャル、こんなところ誰かに見られたら……いやっ……あっ…うっ……」
「大丈夫だよ。今日はホームに俺達しかいないからさ。団長もさっき出かけたし。だから二階の俺の部屋で……」
後はシェラの甘い吐息が聞こえ、しばらく立ったままじゃれ合っていたかと思うと、二人で本格的にじゃれ合うため、仲良く階段を上がって行く音がした。
……何てことはない。
シャルナーク、お前もいずれハゲるぞ！
俺はゆっくりとソファーとテーブルの間から上半身を起こした。
手にはしっかりとイヤリングを握っていた。
出際にポロリとイヤリングが落ちてしまい、ソファーの下に転がってしまう。
それを取ろうと屈みこみ、肩まで腕を突っ込んで探していたところ、あいつらがサロンにやってきた。
俺の姿は大型のソファーに隠れ、奴らの死角となる。
埃が付いた袖を払いながら、壁に掛けられた姿見を覗きこんだ。
俺のオールバックが好きだと言った女。
『……たまには良いだろう』そう呟きながら、髪に残る整髪剤を利用して７・３に分けてみる。
けっこう似合うじゃないか。
俺は悦にはまりながら、女と約束したデートの場所へと向かう。
ハゲと言う事なかれ
ハゲと言う奴は、己がハゲにならぬと思う愚か者
End
2017/04/09 改稿
2009/03/17 加筆・修正
2007/12/08
Backオールバックねた、前から一度は書きたかったテーマに満足♪