どこに女性の魅力を感じるか？
俺の場合は顔の造作よりも、まずは足首に目がいってしまう。
真後ろから見た時、足首が細く締まっているか？
そして腱が美しく伸びているか？
脹脛から踵までのラインがバランスよく取れていることも重要なポイントだ。
特にピンヒールを履いた美しい足首は、否応なくそそられる。
本来フェティシズムという単語は、人類学と宗教学の用語として用いられていた。
一般には縮めてフェチと呼ばれている。
呪術崇拝に起源があるようだが、最近のフェチと表現した場合は、性的倒錯を意味する用語に使われることが多い。
著名な心理学者は性的対象でないものに性的魅力を感じることをフェティシズムと唱え、また別の心理学者は性の逸脱現象としてフェティシズムを考えた。
精神医学的には変態性欲・性的倒錯とされ、趣味の範囲ではなく精神障害の一種と位置付けられる。
たとえば巨乳が好きだからといって巨乳フェチというわけではく、巨乳の女としか性行為がもてず、尚且つそれ以外では性的快感が得られなくなった状態において巨乳フェチとなる。
俗的に、脇フェチ・鎖骨フェチ・尻フェチなど身体のパーツへのこだわりや、ストッキングフェチ・ハイヒールフェチなど物に拘る類も単に好きだというだけであって、フェチと呼ぶのは誤用である。
それに物に拘る場合、実際のところはそれを身に付けている人物が本来の嗜好対象になっている場合が多い。
……で、何が言いたいかといえば、俺の拘りは経験値からなるものであって、統計学に基づくといってもいい。
豊富なデーターは正確な答えを導き出す。
つまり俺は俗悪的な言い方で、足首フェチとは言われたくはないのだ。
ただし俗説も時によっては真実があるということ。
該博な経験から言えば、確かに足首の締まりはあそこの締まりに比例する。
「はい、はい。ならば足首フェチと言わず、何と言うべき？」
そう訊かれると、何と答えたらよいか考えてしまう。
フィリア？マニア？少し違う……適切な表現が見付からない。
デートの最中にオープンカフェで、何気なく街行く女の足首に目を奪われていた。
楽しげに話していた会話が突如止まり、コーヒーを啜る俺の視線の先を、デートの相手であるリューイが辿ってゆく。
悪いが特定の女の足首を見ていたわけじゃない。
次々と歩いてくる女が、たまたま好みの細く締まった足首だっただけのこと。
それに見惚れるというより、観察をしていたという方が合っている。
自分との会話より、他の女に目を奪われたことがリューイには不満のようだ。
足首に嫉妬してどうすると言いたかった。
何を隠そうテーブルを挟み、目の前に座るリューイも足首が気に入って付き合い始めた女だ。
しかも歩く姿が美しく、ヒールの高い靴を履いても歩き方が乱れない。
腰が安定し、背筋を伸ばし手の振り方も歩幅に合っている。
まだ付き合い始めて一ヶ月ちょっとしか経っていないが、想像していた以上に魅力的な女だった。
小さな丸いコーヒーテーブルの脇から、リューイの傾けて揃えられた脚が見え隠れする。
白いピンヒールのサンダルを履いた足は、カモシカのようにすらりとして美しい。
俺の視線は細く締まった足首から順番に、脹脛・膝と追いかけ、薄いベージュの品のよいミニのワンピースの裾へと辿りつく。
裾と太腿の肌合いのコントラストが何ともいえず、口元をにやりと上げてしまう。
そのまま柔らかい曲線を描く腰周りから、括れたウェストに視線を這わせる。
ゆっくりと顔をあげ、俺の掌から少しはみ出すであろう弾力のある形良い胸に到達する。
そこにはシンプルなデザインの、ピンクゴールドのネックレスが飾られている。
そして細い首の上には明眸皓歯な顔が、少し頬を膨らませ、抗議するように唇を軽く突き出していた。
俺と同じ漆黒の瞳に俺が映ると、リューイは傾けていた脚を真っすぐに戻して背筋を軽く伸ばす。
胸元を飾るネックレスとお揃いのピアスが小さく揺れる。
「ふっ、そう怒るなよ」
そう言いながら、俺はスーツの内ポケットからリボンのかかった小さな包みを取り出し、テーブルの上に置く。
「リューイにプレゼントだ」
怒った顔が嘘のように一瞬で明るくなる。
「本当に……ありがとう、クロロ」
リューイの細い指が赤い光沢のあるリボンを解いてゆく。
そしてセンス良くデザインされた小箱を開け、感嘆の声を漏らす。
「わぁ～、キレイ。これ、アンクレットね」
リューイが手にしたアンクレットが午後の光りを浴び、複雑にカッされた鎖の表面に独特の輝きを与える。
リューイはアンクレットの向きを変え、その輝きの変化を楽しんでいる。
「私、このアンクレットがとても欲しかったの。でもダイヤが三つも付いていて、私にはとても買える品じゃなくて。とても嬉しいは、クロロ」
少し涙目になっているリューイを目にし、俺の顔も綻ぶ。
プレゼントしたアンクレットは、今リューイの首と耳を飾るピンクゴールドのものと同じシリーズだった。
ただし俺がプレゼントした品はダイヤがポイントでデザインされており、限定品でもある。
前回リューイとデートした時、お気に入りなのだと言って、今回と同じネックレスとピアスをしていた。
服に合うというより、リューイの肌に合う輝きだと言っていい。
俺は率直にとても似合っていると褒めた。
嬉しそうに目を伏せ、はにかむリューイが可愛かった。
今回はそのことを意識したのだろう。
さらにピンクゴールドが映える、薄いベージュの服を着て来たことに俺も嬉しかった。
そして何気なくリューイと出会った時のことを思い出し、街行く女の足首に目が行ってしまったのだ。
あの時オープンカフェから街行く女達の足首を見ていて、どきりとさせられたのがリューイだった。
釘付けになった視線を無理やり上げれば、そこには俺好みのアイジエン大陸系の女が立っていた。
俺はこれぞという獲物は逃さぬように、すぐに捕獲に入る。
俺は本当に好きになった女にしかアンクレットを贈らない。
たった一ヶ月の付き合いで贈るのもどうかと思うが、リューイにならいいだろう。
アンクレット……それは俺にとって所有者の証し。
だから俺自らが証を嵌めてやる。
もちろん今穿いているストッキングを引き裂き、ベッドの上で横になった足首に。
End
2017/02/07 改稿
2010/11/25
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