「クロロ、愛している？」
問いかけられた質問にしょうがなく答える。
「あぁ、愛しているよ」
「本当に？」
確認するしつこい質問に、
「あぁ、もちろん」
「嬉しい、クロロ」
「……」
「クロロ、愛している？」
再び問いかけられた質問に語気を荒げた。
「しつこい！」
「本当に？」
くどい質問に俺は怒りを露わにした。
「五月蝿いぞ！いい加減にしろ！！」
「嬉しい、クロロ」
「！！！」
何度となく同じことを訊き返えしてくるしつこい相手を睨み付けたが、こちらの怒りを理解出来る相手ではなかった。
何故なら相手はオウム目、オウム科、キバタン。
体長５０センチを超えることもある大型のオウム。
全身白い羽毛に覆われるが、特徴的なのはすっと後ろに伸びた黄色い冠のような鶏冠。
野生では集団で行動し、ギャーギャーと五月蝿く鳴く。
映画の中で海賊の船長が、肩に乗せている鳥と言ったら分かり易い。
生意気な顔をしているくせに、飼い主が付けた名前はクリーム。
たぶん白いボディから幼鳥の時にソフトクリームをイメージしたのだろうが、こいつはオスで、でかく育った今はクリームなどと呼べる代物じゃなかった。
そのうえ御主人様には従順だが、それ以外の人間には攻撃的。
少しでも隙を見せようものなら、カーブした鋭いクチバシで容赦なく突っついてくる。
目を攻撃されたら失明してしまうし、指に食いつかれれば千切れてしまう。
爪も鋭く、とても危険な生き物。
いつもは寝室の天井から吊るされたエキゾチックな丸籠のゲージに大人しく納まっているのだが、鍵をかけ忘れたことをいいことに、嘴で扉を持ち上げ外に出てきてしまった。
そして天蓋付きのベッドの支柱の先端に止り、生意気にも俺を見下ろし、時折り羽をばたつかせて威嚇してくる。
だから俺も負けじと肩を怒らせ、無礼なオウムを睨み付けた。
女優セレナ＝イヴァンの部屋に無断で入り込んでいた。
セレナとは流星街時代からの付き合いで、酸いも甘いも知った仲。
彼女はこちらの世界で女優という地位を確立し、俺とはセフレの関係にある。
セレナは子供のころから美しかったが、女優としては個性派で売っている。
華麗な男性遍歴が有名な女優で、同業の男達を咥えこんで確実に芸の肥やしにしていた。
先日世界的に有名な映画祭の主演女優賞をとり、今夜遅くに表彰式から帰ってくる予定。
そんなセレナを祝うため、驚かそうと薔薇の花束を抱えて忍び込んだのだが……
「クロロ、愛している？」
またも同じ台詞が頭上から訊ねてくる。
セレナが必ずベッドの中で囁く意味のない言葉を、オウムはゲージの中で学習していたのだ。
俺は今初めて、その能力を知ることになる。
「本当に？」
甘える口調も正確に再現してくれるが、問い掛けはそれだけではなかった。
「セルビ、愛している？」
「トランセ、愛している？」
次々と出てくる肥やしにされた男共の名前。
それはこの部屋で行われた情事の数に他ならない。
中にはゴシップねたになった大物俳優の名前もいくつか含まれていた。
よくぞここまでと、別にセレナは俺に男関係を隠すことはなかったから、笑って聞いていられたのだが……
「シャル、愛している？」
「フィンクス、愛している？」
ぎょっとする名前に息を飲む。
「本当に？」
「嬉しい、シャル」
「嬉しい、フィンクス」
俺の知らない現実を突きつけられ、目眩を感じた。
賢いクリームは次々と、覚えている限りの名前を口にしていく。
「だまれ！糞オウム！それ以上喋ったら焼き鳥にして食うぞ！」
俺の怒気に一瞬ひるんだオウムだが、やはり同じ言葉を繰り返し、人を馬鹿にするように羽を広げてギャーギャーと騒ぐ。
なんて憎々しいんだ！
腹の立つオウムのせいで、セレナとの関係を突きつけられたような気がした。
俺もセレナからすれば大勢の中の一人なのか？
セフレの女から、単なるセフレの男と割り切られた不愉快さ。
自問自答する中、俺を嘲るように見詰めるオウム……
房中の出来事を全て見ているオウムを、薄ら寒く見詰め返す。
オウムに対して殺意が湧き上がろうとした時、セレナが帰ってきた気配を感じた。
慌ててスーツの襟元を調え、花束を抱えなおす。
そして寝室の扉に視線を向けようと身体を捻り、ベッドを背にした時だった。
背後で凄まじい殺気を孕み、勢いよく羽を広げる音。
全身が粟立つのど同時に、目の前の扉が開く。
「やだ、クロロ。来てくれたの。嬉しいは」
驚きの中に俺を歓迎する満面の笑み……
寝室に入ってきた御主人様に一直線に飛んでいくオウムの羽が、俺の頬を掠める。
腕を広げ、俺に駆け寄ろうとしたセレナの胸に飛び込んだオウムが甘えるように鳴いた。
まるでこの女は自分のモノだと言わんばかり。
「寂しかったの？クリームったら甘えん坊なんだから。三日留守にしただけじゃないの。ペットショップの人が、ちゃんと世話をしに来てくれたでしょ。……あれほどゲージから出たらだめだと言ったのに」
じゃれるオウムを愛情一杯で抱きしめるセレナ。
たかが鳥のくせに……
俺は笑みを浮かべて見守っていたが、いつかこいつを焼き鳥にしてやると心に誓った。
鸚鵡は鸚鵡……
鸚鵡返しに言葉をしゃべる
鸚鵡は鸚鵡……
鸚鵡返しに言葉をしゃべる
End
2016/11/30 改稿
2011/05/01
Back鸚鵡をライバル視するクロロでした。