普通、親愛の情を示してくる相手に対し、無碍に跳ね返す奴はいない。
ましてや異性となれば、好みでなくても悪い気はしないもの。
でもシンの場合は特別だ。
まずシンが男か女なのか分からない。
そのうえ年齢不詳ときている。
名前だって通り名で、本当のところは誰も知らない。
シンは俺に好意を示してくれるが、それが友人に対するものなのか、恋愛的感情なのか分からない。
分かっていることはいえば、シンが有能な情報屋だってこと。
シンとは蜘蛛になって、流星街を飛び出してからの付き合い。
こちらの世界では一番古い付き合いと言える。
仕事でなくても気が向けば互いに連絡を取り合い、食事や酒を飲んだりするざっくばらんな関係。
もちろんシンは俺がA急賞金首の幻影旅団のメンバーで、流星外の出身であることも知っている。
なぜならクライアントとして、俺自身が最初に話したことだから。
一目見て、シンが余計なことを誰かに話すようなバカではないと見抜いたから。
もっとも話してしまうような頭と口の軽さでは、有能な情報屋としてはやっていけない。
シンはきっと拷問されても、顧客の情報を曝け出すようなことはしないだろう。
それに反し俺はシンの素性を知らない。
もちろん最初に仕事を頼んだ時、頼むに値するかどうか徹底的に調べたけど、抜群に評判のよい情報屋である以外、何も知る手掛かりはなかった。
実際のところ仕事を頼めば評判どおりの腕の良さ。
難題の多い仕事でも確実にこなす。
ネットだけでは入手不可能な情報を、人伝いに裏を取って仕入れてくれる。
会う度に様相の違うシン……
男だったり、女だったり。
子供の時もあるし、老人の時もある。
背格好が違うだけでなく、声も違えば皮膚の見た目もまったく違う。
それは変装なんてものじゃなく、別人の域。
たぶん、これがシンの念能力によるもの。
細胞の配列を変えることが出来るのか？
こんな能力があれば易々と情報を手に入れられるだろう。
最初のころはやたら気になって、どうやって姿を変えているのか訊ねたもの。
だけどシンはいつだって笑い、企業秘密と上手くかわされてしまう。
最近では正体を探ることよりも、シンの能力を生かしリクエストをしている。
俺とプライベートで会う時は、ヨルビアン系の可愛いらしい女の子に化けて貰う。
会う度に好みを付け加え、今では完璧な俺好みの女の子になって会ってくれる。
外見だけじゃない。
性格まで俺の好みを反映してくれるから嬉しくなってしまう。
今まで夢に描いた理想像が、現実になった錯覚を起こしそうだ。
こうなって来ると、当然シンとHがしたくなって来るわけだが……
まっ、擬似恋愛ではないが、取り敢えずは錯覚でもいいだろう。
俺は二人で会う時間が楽しくてしょうがないのだから。
何しろシンは知識が豊富で話しに尽きることがない。
博学の域はクロロを遥かにしのぐ。
それでいて砕けた話しも得意だ。
二人でキワドイ話しをしで盛り上がる。
こんな女の子が本当に自分の恋人に出来たなら……
だが具体的に誘惑する気になれないのは、シンの性別と年齢がはっきりしないから。
俺は今までストレートを貫き通しているし、今後も変わることはないだろう。
それに恋愛年齢の許容範囲が広い俺でも、限界というものがある。
結局はシンに親愛の情を示され、俺も親愛の情を示すというのが二人の関係。
いつものカフェでいつものようにシンと待ち合わせ、いつものように軽い食事をしながら、いつものように楽しい会話をする。
知らない奴が見れば、人も羨む仲の好い美男美女のカップルだ。
周りの女客は俺を、男客はシンをチラチラと見ている。
目一杯周りを羨ませながら、今日も心地好い時間を過ごすはずだったが、不意に柔和なシンの顔が真顔となった。
そして声を小さくし、
「ねぇ、シャル。こうやって、女の子の姿で会うのも今日が最後なの」
俺好みの少しハスキーだけど甘い声が、脳天を打ち抜くような言葉を口にした。
「へっ！！」
人間、まったく予測していないことをいきなり言われると、間の抜けた返事しか出来ないらしい。
俺は鳩が豆鉄砲をくらったような顔で、美しいシンの顔をまじまじと見てしまう。
「そんな顔で見ないでよ。この姿でシャルと会うのは最後だけど、こうやって会うのは今までどおりだから」
「それって、どういう意味！？」
俺は心臓をバクバクさせながらテーブルに身を乗り出し、正面に座るシンに顔を近づけた。
「今までシャルにはあまり自分のことは話さなかったけど、やっと私の今後が決まったから、色々なことがもっと話せるかなって」
「……」
「私ね、きちんと性別が決まったの。ここ一ヶ月の間に男性になるから」
「×××××！？×××…××××××××！！」
俺は椅子から立ち上がり、ワケの分からぬ言葉を発していた。
シンの本名はシンナ＝トランド＝エメス。
実年齢は９８歳。
人間で言えば２０歳位だそうだ。
実年齢を考えればクロロより博識なのも頷ける。
彼の一族は人間と魔獣を幾世代にもかけ合わせたハイブリッド。
２０歳位になるまでは性別が確定されず、その関係で細胞配列を変えることが可能。
従って性別が確定されると、変形することは出来なくなる。
種の特徴として男１に対し女が５であることが、同種の保存に望ましいとされているが、純粋な人間や魔獣の間にも子孫を残すことは可能。
成人を迎えた彼らは自然の摂理で男女の性が決まる。
つまり正式な繁殖期が始まるわけだ。
それまでの性行為は疑似的なもので、繁殖には繋がらない。
俺達人間から比べるとかなり遅い繁殖能力だが、成人するまでは男女どちらの性体験も出来ることが、ちょっと羨ましかった。
そして最近、シンは男になるための兆候が現れたのだそうだ。
シンは確率的には数少ない方に傾いた。
俺個人としては是非女に傾いて欲しかったけれど……
一月後に会ったシンは男前だった。
肩幅もぐっと広がり、目の高さも俺と同じ。
否、ちょっとだけ高いか……
流行りのスーツがやたら決まり、二人で街を歩けばナンパし放題♪
甘系の俺と精悍なシンとがタッグを組めば、ほぼ１００％でナンパが成功する。
俺達は前以上に付き合いが良くなった。
幻影旅団の仕事をしている時以外、シンと過ごすことが多い。
酒を酌み交わし、二人で女の子をモノにする。
ある種無軌道で破天荒。
けれど仕事は緻密で正確。
二極的な付き合い方が楽しかった。
そして何よりもウマが合う。
蜘蛛との付き合いが仲間なら、シンとの付き合いは悪友と言える。
今となってはシンが男性になってくれたことに感謝しているが、こんなことなら性別が決まる前に、俺好みの可愛いシンと一回だけでもやっておけばと、少しだけ後悔している。
たぶんシンは、俺のHな要求を呑んでくれたのではないかと思う。
クロロに報告したいんだ。
俺にホーム以外で親しい友が出来るなんて考えもしなかった。
存在するのは苦楽を共にした仲間だけだと思っていたのに。
俺に新しく出来たのは、悪友という素晴らしい親友♪
End
2018/08/06 改稿
2012/03/08
Back久しぶりにノリノリで書いてしまう。タイトルですが、大好きなスペイン語。（たいして話せないけど）amigoと書いた時点で男性名詞で男友達。intimoは親しいとか仲がいいの意味で、amigo intimoで親友。タイトルの『Mi amigo intimo』は俺（私）の親友。intimoは正しくはíntimo で、ロゴ機能でタイトルを作るとíのバランスがおかしくなるのでiを使用しています。