Syarnorke 11
鏡の前に立つこと３０分。
要領の良い女の子の化粧なら、とっくに終わっている時間だ。
髪だってセット出来ているかもしれない。
男としてはかなり髭の薄い方だが、念入りにシェーバーをあてていく。
かなり深剃りの利くタイプだが、さらに仕上げに剃刀をあてる。
仕上がりを確認するため、顔の角度を色々変えて鏡に映せば、
「おい、シャル。いつまで洗面所を独占しているつもりだ？いい加減に譲れよ」
起きたばかりのクロロが、鏡に映る俺の顔の横に並んでいた。
「あっ、ごめん。すぐに終わるからさ、ちょっと待っててよ」
クロロは寝癖で乱れた髪をかき上げながら、にやにやしながら俺の顔を覗き込んでいた。
ホームには洗面所が一つしかない。
だから朝の混む時間を避け、皆が起きてくる前に一番で髭を剃っていたのだが、今日に限ってクロロの起きて来るのが早かった。
「シャル、どうせお前の髭は薄いのだから、そんなに丁寧に手入れをする必要はないだろ？ウボォーのように剛毛でボウボウならいざ知れず、簡単に済ませろよ」
顔と言わず、全身が密林のように毛深いウボォーの裸が頭の中を過る。
特にモサモサとしたジャングルの中から突き出たアレが豪快で、さすがのクロロが声を失ったことがある。
その時の呆然としたクロロの顔がとても滑稽だった。
思わず笑いがこみ上げて来るのを堪えながら、鏡の横にある棚からアフターローションを手にし、平静を装いながら返事を返す。
「そうなんだけどさ、一応男の身だしなみだから」
「つまり今日のデートの相手は、それだけ良い女だということか？」
「えっ、どうしてそんなことがわかるのさ！」
今日の予定を見透かされていることに焦り、声が少し上擦ってしまう。
するとクロロはにやにやと笑う。
「だいたいお前が丁寧に髭を剃っているなんて、女と会うしか考えられないだろ。しかも御丁寧に二度剃りをしているんだから、よっぽど相手は良い女とみえる。それに今日が初デートだが、一気に自分のモノにする魂胆だろ？」
「すごい、クロロ！完璧に当たってるよ。彼女とは２ヶ月前に知り合って、やっと口説き落としたわけ。彼女を狙う奴がけっこう多いんで、初デートだけど、速攻で俺の印を突きたいんだ。でも髭剃り一で、よくそんなことまで分かるね」
と、俺が感心していると、
「……俺にも憶えがある」
こと女に関して百戦錬磨のクロロが、意外な答えを返して来た。
「どうしても初めての相手とデートをする時は、気合が入るものさ。特に気に入った女となれば尚更だ。着る物はもちろんだが、男だって髪型や、顔にも気を使うからな。眉毛の手入れは今じゃ当たり前だし、肌の調子だって気になる」
女の子は男がたいして顔に気を使っていないように考えているが、髭剃りにはけっこう気を使うのだ。
その後の肌の手入れも重要なポイントになる。
この洗面所の棚にだって、やたら男団員の化粧品が並んでいる。
皆、自分の肌に合わせた化粧水を使うし、シェービング剤にも拘りがある。
あのコルトピですら顔の手入れは怠らない。（どこに顔があるのか不明だが）
ノブナガだってむさい顎髭の手入れには時間をかけている。
特に剃刀はジャポンの鍛冶名工が鍛えた、ジャポン式剃刀を愛用している。
フィンクスは眉毛が生えないくせに、口の周りの髭はやたらに伸びる。
１日に２度、髭を剃らないといけないこともあるのだが、肌がデリケートでカミソリ負けを起こしやすい。
例外的にウボォーだけが毛深いくせに、大した手入れもしていない。
なぜならば、ウボォーの剛毛に剃刀の刃が負けてしまい、思うように手入れが出来ないからだ。
ただしウボォーの場合は毛深いが、伸びるのは遅い。
クロロは俺同様に体毛が薄い方だ。
それでもクロロは俺とは違い黒髪だから、案外と無精髭が似合う。
特に髪を下ろしている時は端整な顔が髭で野性味を帯び、精悍で格好いい。
それに比べ俺は、金髪に童顔ときているから、伸ばすと父ちゃん坊やのようで似合わない。
いつだったか無精髭を生やしていたら、マチとパクの奴に腹を抱えて笑われた。
ひどい侮辱だ！！！
ノブナガには貧相だと言われ、ウボォーは顔にカビが生えたのかと、真剣に心配をされた。
男として一度はダイナミックに髭を蓄えてみたいが、俺ほど髭の似合わない男はいないのではないかと考えてしまう。
自慢の金髪も、母性本能を擽るベビーフェイスも、この時ばかりは仇となる。
しょうがないと諦め顔になれば、クロロに肩をポンと叩かれた。
俯き気味になっていた顔を起こせば、全てを見抜いているクロロがそこにいた。
「気にするなよ。髭なんかなくても、お前の魅力には変わらない。むしろ髭の無い方が、有利な場合だってあるからな。それにそれだけ剃っていれば、２日は剃らずに済むから、泊まっても肝心な時に都合がいいだろ」
そして意味有り気に、ニヤリと笑う。
……確かに、あの時はかなり有利ではある。
俺は彼女の股間に顔を埋め、身悶えさせている自分の姿を想像した。
でも、それでも俺は髭に憧れる
なぜならば、髭は男だけに与えられた特権だから
End
2016/01/12 改稿
2009/03/18 加筆・修正
2007/07/25
Back
シャルナークと幻影旅団（主にクロロ）の日常生活を書いてみようかと作ったシリーズ１作目。従って、オチというものが有りません。でも、アクシデントや爆弾発言などはたまに有ります。基本的に淡々と話しは進みます。そうそう日常生活の中に、オチはないのが普通かと。
個人的に、毛深いシャルは嫌いだ！