仕事の誘いはノブナガからだった。
久しぶりの本業活動に、刺激を求めて参加することにした。
俺としてはいい加減、女の子と暇潰しにするエッチに飽きていたから。
俺は待ち合わせた場所に車を走らせ、先に来ていたノブナガをピックアップする。
深夜のドライブで打ち明けられた計画は、大雑把としか言いようがなかった。
仕事の内容はマフィアのボス宅から、名工が鍛えあげた刀を奪うという単純なものだが、その刀の存在に信憑性がない。
なぜなら今まで何度も偽物騒ぎがあった刀で、本物は疾うの昔に戦火で消失してしまったと、コレクター筋では噂されている品。
以前俺も興味本位で調べたことがあったが、存在は限りなくゼロに近い。
まったくもってこの胡散臭い情報を、どこでノブナガは仕入れてきたのか。
しかも明晩襲うだって！
この仕事で確実に分かっていることはといえば、ボス宅には手練れの組員４２人と、二つ星ライセンスを所有するハンターが３人。
ライセンスはないが同等の力を持つ念能力者が５人、ボディガードとして常駐しているということ。
蜘蛛の中で戦闘を担当するノブナガにしては、まずまずの下調べ。
だけど肝心の獲物の情報は、あまりにも不確実。
だから情報処理担当の俺が誘われたのか……
もっともこれだけボディガードを雇っているのなら、ボスの命を守るだけでなく、それ相応のお宝を隠しているのは間違いないだろう。
お目当ての刀はなくても、そこそこの仕事にはなると思われる。
でもさぁ～～～
不夜城とも言える街の環状高速道路を、何周ドライブしただろう。
一周２０分足らずの外周のくせに、回るたびにネオンサインやライトアップが変わる。
目に飛び込んでくるビル群の色彩は変化し、同じ街を走っているとは思えない。
しかも秋月のせいか、いつもより月が大きく見えて幻想的。
まるで近未来都市を走っているような気分。
そのくせ車の中では生々しい会話。
最初は仕事の話しから始り、旅団内の内輪話し。
フェイタンが拾った子猫を飼い始めたとか、フィンクスが女の子にまたふられとか。
後はくだらない世間話しで始終する。
一見すれば話しは盛り上がっているようにも感じるが……
気になる本筋は別の所にある。
「ねー、実のところ、刀なんてどうでもいいんじゃないの？」
俺は目の端に、ニヤリと笑う顔を捉える。
そう……
イラついているのはノブナガだけじゃない。
俺だって……
だから無意識に荒くなるハンドル捌き。
踏み込むアクセルがタコメーターの針を跳ね上げる。
ベッドの中で手を伸ばした電話は仲間からだった。
ここのところ、全てにおいて停滞気味だった俺を喜ばす。
喜色満面でベッドから跳ね起き、床に足を下ろす。
そして勢いよく立ち上がろうとベッドに左手を付けば、その手首を白く華奢な手が掴む。
何だよ！
むっとした面持ちで、伸ばされた腕の付け根にある小作りな顔を見た。
たった今まで俺の下で喘いでいた顔が、非難がましい表情で見上げている。
思いっきりうざさを感じながらも、俺としては出来るだけ穏やかに言った。
「悪いけど急に用事が入ったから、これで帰るよ」
「こんなに遅く！？今の電話、女でしょ！？」
少しヒステリック気味な声が鼓膜に響く。
「そんなんじゃないよ。今の電話は男からで、子供のころからの仲/////」
俺が仲間と言う前に、握られていた手首に爪が食い込む。
たいした痛みではないけれど、薄皮が裂け、血が滲み出る。
人間、血を見ると逆上する奴が多いとは言うけれど……俺もその中の一人だったわけだ。
握られていた手を払いのけ、そのまま彼女の細い首を血の滲む左手で鷲掴みにした。
瞬時の出来事に叫び声をあげることも出来ず、押さえ付けれた首を軸に、ベッドの上で首から下をばたつかせる女。
大きな青い目がさらに大きく見開かれ、口からは泡を吹く。
華奢な手が締め上げる俺の腕を掻き毟り、必死に抵抗するが、しっかりと頚動脈を押さえた手が緩むことはない。
首から上が見る間に紫色になり、枯れ木が折れるような音をたてる。
人の首を絞めるのは初めてではないが、折るのは初めてだ。
白目を剥いて絶命したうら若き乙女を見ても罪悪感はなく、そこにある感情は、仲間と会うことを邪魔されたという疎ましさだけ。
ほんの１０分前まで、俺の名前を甘く呼び、蕩けるような表情で揺らされていた。
男の誘いに簡単に乗り、すぐに自分の部屋で脚を広げる女。
しかもたった一回の関係で、所有欲を剥き出しにしてくるなんて……
俺が求めたものは一夜の快楽で、それ以上のものではなく、それ以下のものでもない。
ここのところ溜まる一方の苛々を、手っ取り早く鎮める手段として利用したに過ぎない。
……人間なんて、実にあっけなく死ぬものだ。
まだ体温を残す女をベッドの上に残し、俺は手早く身支度を整えた。
はやる心は女の部屋がマンションの４階であることを忘れさせ、深夜の人通りのない石畳に飛び降りる。
そして車を停めてあるパーキングへと急ぎ足で向う。
俺は獲物を見付けた猟犬のように、約束の場所へと駆けつける。
これから起こる殺戮に、大義名分が欲しかったのは俺だけじゃない。
刀なんて最初からどうでもよかった。
溜まるストレスを発散させるため、適度に身体を動かし、脳に溜まったアドレナリンを開放させる。
ただそれだけのために計画された仕事。
不幸にも標的に選ばれたのは、空いた十老頭の座に最も近いと言われている男に飼われた連中。
有能な念能力者もいて、けっこう楽しめそうだ。
ヒソカはGIで見付けた除念師を、とっくにクロロの許に連れて行ったはず。
ならばなぜ……
一日千秋のごとく待つ思いは俺だけじゃない。
『お帰り』を言えぬストレスが、限界にまで達していた。
その大きさは、女の子を抱いたくらいでは解消出来なくなっていた。
だから誰でもいいから殺したい気分なんだ。
あぁ……いったい何時になったら顔を見せるつもりなんだよ……
電話一つないことに、苛々が募ってゆく。
今更ながらクロロの大きさが、重さとなって圧し掛かる。
End
2018/08/06 改稿
2012/10/31
Backこの作品は、2012/10/26 「1290000hit 多謝 シャルナーク」IMAGEでUPした、アンニュイなシャルナークの絵を元にした作品です。