Syarnorke 129
警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
「……シャル。私のこと…好き？」
子供の頃から変わらない……
いつも唐突に質問をするエリエル。
おかげで振っていた腰が、一瞬止まりそうになる。
俺がエリエルの望む答えを口にしてやると、エリエルの口から再び喘ぎ声が漏れる。
刻むリズムが激しさを増し、エリエルの桜色に染まった背中が大きくのけ反り、俺を包み込んだ壁が大きく伸縮をした。
それを確認した俺は、掴んでいたエリエルの腰に力を籠め、最後の一振りをする。
俺とエリエルとの関係はと言えば、流星街時代からの幼馴染み。
俺が属しているクロロ＝ルシルフルが率いるグループとは違うが、俺達のグループとは友好的なグループのメンバーだった。
そんなエリエルとはちょっとだけ付き合ったことがある。
別に喧嘩をしたわけではないが、２人の関係はあっと言う間に自然消滅。
仲間の誰かが気が付く前に付き合いは始まり、そして終わっていた。
当時の……今でもか、目まぐるしい女性関係に、エリエルの名前は完全に忘れ去られてしまう。
それが３年前の１２月、偶然にも外の世界でエリエルと出会ってしまう。
俺は当時付き合っていた彼女と会うために、待ち合わせ場所に急いでいた。
雑踏の中で突然名前を呼ばれ、急いでいた足を止め、正面に立つ見知らぬ女連れの男を凝視した。
警戒する俺とは逆に、声をかけてきた男は親し気な笑みを浮かべる。
どこかで会った顔だと思いつつも相手が名乗るまで、どこの誰だか思い出すことが出来なかった。
子供の頃もボーイッシュな女の子だったが、計らずも懐かしい再会をした時、本当の男と見間違う姿に驚かされた。
黒髪をオールバックに決め、黒い革のロングコートを着ている。
ボタンを留めていないコートの間からは、仕立ての良いスーツが見える。
シークレットシューズを履いているであろうと思われる身長は、俺と目線を揃えるが、靴を脱いでも女としては十分背丈があるように思われた。
エリエルの腕には、彼女より少し若いであろう女の子が腕を絡めていた。
ウエーブのかかったブロンドのロングヘアーに、ややオレンジの入ったピンク系のルージュが似合う、可愛らしい顔立ち。
黒系のエリエルと合わせたのか、着ている黒のフレアードレスダウンコートが良く似合う。
襟にはふんわりとしたフォックスファーを付けているせいか、より可愛らしさを強調していた。
口を開けばエリエルは、声を低く抑えているものの、女性であることを隠せない。
久々の再会に驚きと感激を隠せない俺達とは逆に、攻撃的な目で俺を見る連れの女の子。
俺の連絡先を訊くエリエルに、不愉快そうな顔をして見せる。
エリエルはそんな女の子を宥めながら、『時間がないから』と、すぐ先にある今話題のミュージカル公演をしている劇場の看板を指差す。
仲良く去って行く２人の後ろ姿を見送りながら……２人の関係に納得をした。
その日の深夜、エリエルから携帯に電話がかかって来る。
俺は疲れきって軽く寝息をたてる彼女の背中を横目にしながら、昔話しと近況とで、長話しをしてしまう。
互いに小声で話す状況に、笑いが込み上げそうになったのは、エリエルも同じことだっただろう。
そして俺達は数日後、会うことを約束した。
１２月２３日 ２０：００
世間はイヴイヴで、本番である恋人と過ごすイヴとは逆に、街中では仲の良い友人同士が集まり、レストランなどで大騒ぎ。
路上には既に酔いが回り、管を巻く奴もいれば、早々と縁石を枕に寝ている者までいる。
そんな連中を尻目に、エリエルと約束の場所で待ち合わせれば、前方から俺に向かって一直線に歩いてくる人物に驚かされる。
先日の男装姿からは想像の付かない、否、こちらが本来の姿なのか……フェミニンな出で立ちのエリエルに目を奪われる。
ケープ付きの薄いベージュのコートにベレー帽。
膝より少し上のコート裾からは、白いタイツを穿いた、カモシカのような脚が伸びている。
くるぶし丈のブーツは踵が低く、先日とは目の高さが大分違っていた。
薄い化粧が本来の彼女の美しさを際立たせる。
耳を飾るピンクゴールドのピアスが揺れ、本来なら強く見せるはずの黒髪を、柔らかい雰囲気に変えている。
俺はスッと差し出された手を無意識に取り、自分の側へとエリエルを引き寄せる。
微笑みながら引き寄せられたエリエルの手は冷たく、俺はそのままコートのポケットに、迷わず２人の手を入れた。
自然と絡み合う２人の指……俺の体温が、エリエルに伝わって行く感覚が良く分かる。
……こんな予定じゃなかった。
俺達の足が喧騒の表通りから、静かな裏通りへ言い合わせたように向きを変える。
違うだろ……俺が考えていたのは、美味そうなレストランにエリエルと入り、その後はバーを梯子しながら、空白の時間を埋めるために朝まで語り合う。
それがどうだ……今俺達が歩いている場所は、両サイドにそれ用のホテルが建ち並ぶ通り。
今夜はイヴの前夜とは言え、かなり高い需要があるはず。
まだ宵の口だが部屋はすべて満室で、空きがあることを知らせる看板の明かりは消えている。
この時期、当日予約があるくらいなのだから、空きなんて……ともかく左右の建物に目を配る。
すると奇跡か偶然か……
俺とエリエルの握りしめられた手が、更に強くポケットの中で握り合う。
肩を寄せ合う２人の影が、１軒の洒落たホテルの中に吸い込まれる。
そして俺達を導き入れた、唯一の看板の明かりが消えた。
道行く人に、『クリスマスイヴの意味を知っている？』と訊けば、誰しもが当然のように知っていると答えるだろう。
『クリスマスである１２月２５日の前日、２４日がクリスマスイヴでしょ』と。
残念ながら、それは正解とは言いかねる。
クリスマスイブヴは２４日の日没から深夜０時までを言う。
それに対しクリスマスは、２４日の日没から２５日の日没までの一日。
つまり２４日の朝や昼はクリスマスでもイヴでもなく普通の日。
また２５日の夜は、すでにクリスマスではなくなっている。
俺とエリエルの関係は、３度目のイヴイヴを迎えていた。
電話では時折り話すものの、直接顔を会わすのは１年に１度。
話し合ってその日に決めたわけではないが、イヴイヴであることが、俺達には特別な意味があるように思えた。
そして会えば、１秒を惜しんで繋がった。
いつもは男役をこなすエリエルが、この日だけは女に戻り、俺の腕の中で喘ぐ。
それはまるで、男装するために胸つぶしをしていたバストベルトから、解放される喜びを表しているかのようだ。
エリエルは必ずセックスの最中に『……シャル。私のこと…好き？』と、訊いて来る。
けして『…愛している？』、とは訊ねて来ない。
だから俺はエリエルの気持ちに応えるべく、『……あぁ、大好きさ』と、偽りのない気持ちを言ってやる。
愛していると言うには重すぎて、好きだから続くという関係もあるのだ。
明日のイヴは、『……シャル、愛してる。私のことも愛している？』の、繰り返しをベッドの中で、いつも以上に耳にするのだ。
ここぞとばかり、安売りされる愛の押し売り。
俺にとってはイブも普通の日も大して変わりのないセックスなのに、クリスマスは女の子にとって誕生日と並ぶ特別な日らしい。
その特別な日のために、彼女の喜ぶプレゼントを選び、彼女が気に入りそうなレストランを探す。
そしてメインイベントである２人だけの時間のために、彼女を満足させるべくロマンティックなホテルを予約する。
そんな行程の面倒さに、俺はどっと疲れを感じてしまう。
おかげで楽しいはずのクリスマスも、ノルマをこなすだけのイベントになってしまう。
……最初は興味もあったし好意もあった。
彼女とするセックスも貪欲に楽しんだ。
それが１２月２４日の晩を境に、急激に冷めて行く。
否、クリスマスの準備段階で、既に冷めていたのだ。
だから準備に苦痛を伴うのだ。
それでも自分の気持ちを整理するために、彼女が楽しみにしていたイベントだけは淡々とこなす。
そんな彼女とは、１週間後に迎えるニューイヤーを、共に過ごす気分には到底なれなかった。
それはエリエルとて同じこと。
俺同様に、イベントに固執しないエリエルにとって、クリスマスは付き合っている女の子との関係を、考えさせられる一日らしい。
１２月２４日 ５：００
俺とエリエルは、早朝のホテルを後にする。
まだ人のいない表通りに出た俺達は、互いにタクシーをひろい、１年後に会う約束をして別れることに。
タクシーに乗り込むエリエルの横顔は、昨夜見せた女の表情から、男の表情に切り替わっていた。
１年に１度、何の気兼ねもなく、自分が自分らしく気さくな異性と一緒にいられる時間は終わりを告げる。
たった一晩だから続く関係……濃密だが、サラリとした関係が心地よい。
それに反し……
まずは隠れ処に戻りシャワーを浴びる。
心地よいエリエルの香りが一気に洗い流されてゆく。
そして今夜を最後に、甘える彼女に別れを告げる。
ベッドの上からプレゼントした品が、俺の背に向かって投げつけられる。
たとえ『酷い！一方的だ！』と言われようが、俺が俺らしく生きるために、罵声と泣き声を聞きながら扉を閉めるのだ。
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END
2017/12/23
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彼女と過ごす誕生日とクリスマスが、楽しい以上に重圧だと語った男友達がいた。イベントに拘る人も多いが、イベントにプレッシャーを感じる人もいるのだという事実。
とても書き足りない。時間を見て、エリエルサイドや、二人の流星街時代の話しをまとめたいです。