探究心はある方だが、専門外のことをするのは嫌いだ。
だいたい俺のメインとなる仕事は情報収集と分析。
もちろん状況によっては戦闘ということもあるけれど、武闘系の仕事は俺の仕事じゃないし、才能もない。
元来、血の流れる行為は好まない。
ましてや拷問なんて……
出てくるのは切ない溜息……
欲しい情報を得るために残されたのは、拷問という手段しかないのか。
まったくもって、後悔先に立たずとはこのことだ。
こんなことなら経費節減などと言わず、パクかフェイタンを始めから誘えばよかった。
仕事の内容としては至って簡単なはずだった。
クロロが欲した宝石を奪うべく、綿密に下調べをして、計画どおりクロロと一緒に持ち主宅に押し入る。
警備は金にものを言わせた最先端だったが、首尾よくお目当ての金庫を開ければ、在るべき宝石はなかった。
館の主は宝石を、厳重な金庫ではなく広い館のどこかに、アナログ的にさりげなく隠したのだ。
金庫やセキュリティ会社に頼った警備を破るのは案外と簡単だが、単純に隠された物を見付け出すのは想像以上に難しい。
百近い部屋を順番に時間をかけ、しらみ潰しに探せというのか……
しかも時代ごとに建て増しされた館は迷路のような造り。
自力で探すとなったら、一週間？二週間？一ヶ月？勘弁して欲しい。
ある意味、この館そのものがラビリンスという、絶対的防御の金庫なのかもしれない。
探すという無駄な時間を避けるためには、主から宝石の在りかを訊きだすのが一番なのだが……
自分の命をかけてまで、宝石を守る理由はないと思ったが、宝石が先祖代々から伝わる家宝となると、すんなり白状する気はないらしい。
捕らえた主は床に崩れるように座り込み、突然深夜の寝室に現れた招かざる客を見上げていた。
結局……実務担当はいつだって俺の役目だ。
お宝を御所望のクロロは我関せずと、寝室の隣にある書斎の本棚から見付けた古書を手に、寝室のソファーに腰を下ろし読書を始める体勢に入っている。
つまり実務である拷問は、俺一人に任すという意味。
しかも持久戦であることを予想し、その間クロロは読書に耽ろうという魂胆だ。
無情な声が寝室に響く。
「シャル。すまないが、宝石の所在が判ったら教えてくれ。主であるこの女も、お前が気に入ったようだし、お前も金髪のヨルビアン美人は好みだろ」
クロロは言うだけ言うと、足を高く組んで本を開く。
あぁ、確かにヨルビアン大陸系の美女は好みさ。
でも……
俺は足元に崩れ、薄い夜着をまとった美しい主を見下ろす。
主の名前はサシャ＝ポーラント。
昨年父親を病気で亡くし、２５歳という若さで広大な領地と事業を引き継いだ、若き女当主。
サシャは自分の置かれた状況に、深いエメラルド色の瞳を振るわせる。
これから行われるであろうことに半分は怯え、半分は期待を籠めている。
だから嫌なんだ……
容姿は改めて言うまでもなく美しいのだが……
金色の緩くウェーブのかかった長い髪が、大きく開いた夜着の胸元にかかる。
首筋から大きく割れた胸の谷間には、肌の白さを強調するように、脈打つ青い血管が浮き上がっていた。
ごくりとつばを飲み、意識を保つために左右に首を振る。
こんな時、フェイタンならどんな責め方をするのだろう。
一枚ずつ爪を剥ぐ？それとも容赦なく鞭で叩く？それとも美しい顔を、鋭利な刃物で刻むのか。
俺には残酷すぎて、そんなこと出来やしない。
それならば、薄い絹の夜着を引き裂いて……
そんなこと、やはり出来やしない！何故って、
「クロロ！俺には出来ない！遠慮するよ！拷問するくらいなら、俺が時間をかけて宝石を探すから。それともパクを急遽に呼ぼうか」
俺はクロロの前に立ち、拳を握りしめながら言った。
するとクロロは読み始めた本を膝の上に置き、
「バカ言うな。こんな広い館の中を探すのは時間の無駄だし、パクを流星街から呼び出したら、どんなに早くてもここに来るのに丸二日はかかるぞ。それよりお前がレディ・ポーラントに直接訊いた方が早いだろ。だいたいお前がしっかり宝石の在りかを調べなかったのがいけないんだからな」
薄い笑いを口元に浮かべ、クロロが容赦なく言う。
美しき主は俺にとって無慈悲な言葉に期待の度合いを加速させ、潤んだ瞳で俺を見上げていた。
目的の宝石を、明け烏が鳴くころには手にし、クロロと俺は館を後にする。
御満悦なクロロとは逆に、俺は涙目だった。
いったい誰のための拷問だったのか……
サシャ＝ポーラント、２６歳、元男性。
親が亡くなったことを機会に、念願であった性転換手術に踏み切る。
来月には一部残された工事が完了し、全てが女性化する予定。
それに加え、真性のＭ。
彼女…それとも彼の趣味に、俺がどんぴしゃだったらしい。
汚い言葉で罵り、ベッド脇にさりげなく置かれていた乗馬用鞭で、突き出された白い尻を叩くはめに。
サシャは歓喜に顔を歪め、悦楽の呻き声を漏らす。
揺れる尻の間から垂れさがるのは、実に立派な息子。
散々責めさせられたあげく、俺の大切な貞操が……
満足した笑みをサシャは浮かべ、お宝の宝石を渡す条件に、俺は次に逢う日を約束させられてしまう。
クロロは必死に笑いを堪えていたが、俺にとっては人生最大の悲劇だ。
サシャはお土産にと、持ちきれないほどの宝石や貴金属をプレゼントしてくれたが……
俺は学習した。
経費節減などと言わず、仕事には必ずパクかフェイタンを連れて行こうと。
その道にはその道のプロがお似合いだから。
鳥は鳴く……鳥は啼き……鳥は泣く……
地下格納庫を見付けて下さった方の専用短編に、シャルナーク拷問編が続きます。（近日中にUPされる予定ですが、Last update には記されません）2011/04/27 地下格納庫TOPにUP済み。改稿未定。
End
2017/10/06 改稿
2010/03/15
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