Syarnorke 82
警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
俺のファーストキスがいつだったかなんて、思い出すことも出来ないくらい昔しの話し。
でも敢えて言うなら、子供の時にふざけ半分でクロロにされたキス！？
ちょこっと唇に触れるだけならまだしも、顎を取られ、しっかりと口付けされてしまう。
いくらクロロが一方的にふざけたとはいえ、人生最初の記念すべきキスが男とだったなんて、洒落にもならない。
しかもクロロはご馳走さまとでも言うように、離れた後でわざと舌なめずりをするものだから、幼いながらに少しだけ変な気分になってしまう。
見物していたウボォーは、目を白黒させた俺を見て、腹を抱えて笑っていたっけ。
今にして思えばあれは何だったのか？王様ゲーム？それとも何かのバツゲームか？
キスの記憶だけが鮮明で、キスされた原因がふっ飛んでしまっている。
俺の大切なファーストキスを返せと叫びたい。
思い出に残るファーストキスは、相思相愛の相手とするべきだ。
ドキドキで、蕩けてしまいそうなくらい甘いキスを……
『わたし、ファーストキスはシャルとするの』俺の顔を見て、真剣に言ったレナはまだ六歳で、とてもませた子供だった。
母親似の美人で、将来はさぞかし男を翻弄する女になるのだろう。
今、ベッドを共にしている母親のレイラのように。
「やだ……レナがそんなことを言ったの。それでシャルはどうするつもり？」
レイラは先ほどまで見せていた扇情的な表情から一転し、眉根を寄せた。
「どうするって……」
俺としてはレナの言葉を軽く受け流していたが、さすがに会う度に言われては……
「そのうち初めてはシャルがいいなんて言い出したらどうしよう」
初めてって……つまり、初めての男は俺がいいってこと？
情事を終え、余韻を残しながらベッドの中で紫煙をくゆらしていた俺の胸で、レイラが少し嫉妬混じりに言った。
面白くないと言わんばかりに、俺の肩に歯をたてる。
本気ではないけれど、甘噛みでもない痛みが肩の表面に走る。
おかげで指先が揺れ、タバコの灰がシーツに落ちそうになった。
「痛いよ、レイラ！レナはまだ六歳の子供だよ。まだ愛だの恋だの、男と女のやることなんて分かっていないだろ」
そうは言ってみたものの、流星街で育った俺が六歳くらいの時、春を売る女が瓦礫の陰で商売をしている姿を目にしたことがある。
下半身をむき出しにした男女が、立ったままで身体を擦り付け合い、動物的な喘ぎ声を出していた。
何をしているのかよく分からなかったが、息を飲み呆然としていると、一緒にいたクロロは俺の目を慌てて塞ぎ、その場で固まっていた俺を連れ去った。
外の世界だって、テレビを付ければＣＭでキスシーンはあるし、ドラマや映画ではべッドシーンだってある。
それ専用のチャンネルを契約している家だって多いと聞く。
幼い子供でもネット社会に取り込まれている現代社会、流星街のように生で見ることはなくても、映像で触れる機会はいくらでもあるはず。
「シャル、いやよ！レナの初めての男になったら」
「まさか！」
思いもよらぬレイラの発言に、六歳のレナの顔が頭によぎる。
おかげで咥えていた煙草を落としそうになってしまう。
「今は六歳でも、十年後には十六歳よ。いいえ、八年後の十四歳には女になっている可能性だってあるは」
それはそうかもしれないけれど、少し話しが飛躍しすぎないか。
むすっとしたレイラの顔は六歳の娘を持つ母親のものではなく、完全に我が子をライバル視する女のものだった。
十年後、レナは蕾から瑞々しい花を咲かせ、レイラは四十歳を超えて大年増女になっている。
俺だって三十二歳だから、男盛りに入るころと言っていい。
いずれ来るであろう老いと年齢のギャップに、レイラは敏感に反応を示す。
レイラ＝ビダル、３１歳。
月に四本の執筆と、週に三本のレギュラー番組を持つ美人人気料理研究家。
三年前に舞台演出家の夫と離婚し、彼との間に六歳の娘がいる女。
俺にとっては半年前から付き合い始めたセフレの一人。
最初は歳の差九歳は大きいかと思ったが、付き合ってみると案外に良い。
若い女の子のように何でもかんでも強請るのではなく、よく気が付き俺を甘えさせてくれる。
それに当然のごとく料理は美味い。
そしてセックスには貪欲で、若い子には出来ない経験豊富な奉仕をしてくれる。
たまに刺激を求めてやる、ソフトＳＭプレイも気に入っている。
付き合い始めたころは仕事の合い間を縫って、ホテルや車の中で刺激的なセックスを楽しんだ。
だがここ最近は、レイラの自宅で会うことが多くなった。
執筆や新しい料理の開発に忙しく、オフィース兼自宅からあまり外出出来なくなったのだ。
出来る限り娘のレナが寝静まるのを見計らって通っていたけど、最近では娘公認の恋人になっている。
そのせいかレナは気軽に俺のことをシャルと呼び、遊びに来た俺の膝の上に座ると、なかなか下りてくれない。
小さな子に甘えられるのは嬉しいけれど、俺の目的はレイラと気持ちよい時間を過ごすために来ているわけで……
見かねた母親に促され、やっとレナは自分の部屋のベッドに潜り込むといった具合。
不満そうなレナがいつも口にすることは、『シャル、今夜もママのお部屋にお泊りするの？』
こくりと小さく頷けば、悲しそうな顔で俺を見上げる。
最初は大切な母親を捕られることが悲しいのかと考え、ちくりと胸が痛んだこともあったが……
『わたし、ファーストキスはシャルとするの』ここ一ヶ月、レナがそっと俺だけに言う。
言うだけなら人畜無害で可愛いものだ。
だが逆に、自分の恋人に懐く我が子に、レイラがぴりぴりとしていた。
子供のことは愛していたが、元々は欲しくて作った子ではなく、出来てしまったから結婚せざる得なかったというレイラの事実。
別れた夫は仕事のアシスタントで働いていた実の妹に寝取られ、それが原因で離婚になってしまう。
どうやら彼女にしてみれば、血の繋がりがあろうとなかろうと、女の匂いをさせた瞬間から警戒すべき存在になるらしい。
過去の経験が、たとえ娘であろうと警戒心を煽る。
それにしても相手は六歳だ。
俺に幼女趣味はなく、レイラの過剰な反応に最初は面白がっていたのだが……
手にしていた煙草をナイトテーブルに置かれたガラスの灰皿でもみ消すと、ガラムの甘い香りを残したままレイラにキスをした。
そして本日の二回戦に挑む。
熟れきった身体が弓なりに反り、歓喜の声をあげる。
いつも以上に時間をかけ、激しく責めたてた。
レイラが抱いたバカな考えを払拭するように。
ぐったりとなった身体を残し、いつものように早朝、性交特有の臭いを残した部屋を後にした。
情事の翌日に、相手の子供と朝ごはんを一緒に食べるのも気が引ける。
足音をたてぬように真っ直ぐに延びた廊下を歩き玄関へと向うが、まだ明けきらぬ薄暗がりの中を、小さなシルエットが待ち受けていた。
俺は足を止め、
「……レナ」
思わず影の主に声をかけていた。
「こんな時間、何をしているんだい……おしっこでもしたいの？」
俺がプレゼントしたお気に入りの熊のぬいぐるみを抱きしめ、ピンクのネグリジェを着たレナが恥ずかしそうな顔をしながら、頭を振った。
「眠れないの……」
「眠れないって、お部屋に連れていってあげるから、いい子にして寝ようね」
そう言って優しく手を引けば、レナは小さな手を広げて俺の腰に縋り付く。
「わたし、シャルが欲しいの。お願いだからキスをして」
上目遣いで睫毛を瞬かせ、濡れた唇で誘う。
その動作と口調が怖いほど母親のレイラに似ていた。
ぞくりとする寒気を背中に感じながら、俺は誘惑する唇を避け、前髪が跳ね上がった額に触れるだけのキスをする。
「さぁ、いい子だからお部屋に戻ろうね」
不満気なレナのお尻を軽く叩き、ベッドに寝かし付ける。
布団から半分顔を出したレナが言う。
「シャル、あんな子供みたいなのじゃくて……いつかママにするようなキスをして。そしてママとするように、裸で一緒にベッドで遊んでね」
裸で一緒にって、覗いてた！？俺の寒気が極限に達する。
「あぁ……レナがいい子にして、ママ以上の女になれたらね」
返ってくる言葉は耳にせず、足早にレナの部屋を出た。
いつまでも背中に絡む視線は大人の女そのもの。
そういえばクロロが言っていたっけ……女は生まれ落ちた時から女であって、灰になるまで女なのだと。
言うまでもなく、二度とレイラとレナに会うことはなかった。
後十年、いや八年か……
その時になればレナに相応しい男が現れる。
そしてレナが望む、甘く、狂おしいキスをしてくれる。
それが恋というものだから……
END
2017/06/12 改稿
2010/11/28
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タイトルからイメージする甘さはなく、ひたすらダーク。