警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
「ねぇ～シャル。甘い痛みって、どんな痛み？」
「さぁ……俺って、痛みには弱い方だからね。だいたい甘い痛みなんて、経験したことがないから分からないよ」
仕事でパソコンに向う俺の背後から、セリが意味不明な質問をしてくる。
俺はディスプレイに集中したかったので、セリを適当にあしらっていた。
「なら、甘い疼きって？」
「……疼きって、寒い時に後遺症なんかで、じくじくと痛むやつのこと？ならば疼痛なんじゃないかな」
俺にとってどうでもいい話題は、さらに関心のないものへとなってゆく。
「それじゃ～、甘い電流が流れるは？」
「電流に甘いも辛いもないだろ。その手の拷問の話しはフェイタンが得意だから、なんだったら試してもらってくれば」
俺はいつになく、そっけない答えをしていた。
普通の女の子なら構って貰えない苛立ちから、この辺でそろそろ怒りを爆発させるところだが、セリの質問は淡々と続く。
流星街時代、ちょっとだけ付き合っていたセリと偶然街中で出会う。
久しぶりに会ったセリは可愛い女の子から、魅力的な女へと変化していた。
積もる話しをしているうちに、何となくよりが戻ってしまう。
今にして思えば、どうしてセリと別れたのかはっきりしない。
たぶん俺の浮気のせいか？否、そんな明確な話しじゃない。
当時セリが本命ということもなく、複数いたガールフレンドの一人。
セリにしても俺にぞっこんというわけではなく、他にも肉体関係を持つボーイフレンドが何人かいたようだ。
流星街の男女関係なんて、年齢に関係なくこんなものだ。
まっ、自然消滅というのが妥当なところ。
だから再び付き合い出すのに過去の拘りはなく、互いの住まいを行き来していた。
流星街の出身であるセリは、俺が幻影旅団の団員であることを知っているので、余計な気を使わなくてすむので楽だった。
それに他の女の子と付き合ったとしても、過去の例からいって不快を示すことはないだろう。
俺もセリの男関係に口を出す気はない。
互いに気安い関係が維持出来ればそれでいいと考えている。
「……甘い蜜の味は？それに、甘い香りのする喘ぎって？」
仕事に集中しようとする俺に、雑念を与える言葉。
「それって、おかしくないかな？だいたい蜜は甘いものだろ？それを重複して言うなんて。喘ぎに甘い香りがするのもどうなんだか。だいたい喘ぐという動作は……」
何度も繰り返される胸焼けしそうな言葉の繰り返し。
いったいセリは何を言っているんだ。
腰掛けていたワークチェアーを半回転させ、セリのいる後方に目をやる。
するとセリはソファーに寝ころび、何やら本を読んでいる。
そのタイトルに目を凝らせば、恋愛小説の王道といわれるシリーズ。
毎月１０冊ほどの新刊が出ることで有名。
すでに２千冊が刊行され、年齢を問わず世の女性を虜にする。
名もない平凡な女の子が紆余曲折で、御曹司や王家の血筋に嫁ぐ玉の輿、もとい、シンデレラストーリーが売りときている。
しかも相手の男は必ず二枚目で、背も高く屈強な肉体をもち、高学歴で知識と教養を兼ね備えている。
そのうえセックスのテクニックは抜群で、必ずりっぱな代物を持っている。
そして性格は積極的で信念をもち、一人の女性に愛を貫く。
話しの結末は、１００％のハッピーエンド。
男の俺から見れば荒唐無稽な小説で、こんな理想を並べたような男がいたら是非会ってみたいもの。
現実の男女関係なんて初めはいいものの、後になればドロドロになることが多い。
だからめんどくさくもあり、それでいて面白い。
男女の付き合いにこれと言った形もなく、相手が変わればその形態も変わるもの。
それにしてもドライなセリが、こんな本を読むとは驚きだ。
そんな本、何が面白いのかと訊いてやりたかった。
「なんだよ。セリが質問していたことは、その本に書かれていた文章なわけ？」
セリは活字を追いながら答える。
「そうなんだけど、やたら甘いという単語が多くて、使われている意味がよく分からないの。一応話しの流れで使われているのは理解出来るけど、この感覚がね。たとえば甘い蜜って言うけど、シャルは甘く感じたことがあるわけ？」
俺にとって甘い蜜と言えば、何か得する美味しい話しを指すわけだが、この場合は愛液のこと。
セリ以外の女の子だったら、こんな明け透けな訊き方はしないだろう。
あまりにもざっくばらんな訊き方に卑らしさはなく、答える方もストレートだ。
「愛液が甘いわけないだろ。愛液、すなわち膣液は汗のようなもの。血液から漏れ、成分は主に血漿だからね。だから愛液は、むしろ少しのしょっぱさを感じるくらいさ。男性器を挿入した後は、愛液に脂肪分が増えると言われているから、多少の味の変化はあるんじゃないかな？」
セリはソファーから起き上がり、ソファーにきちんと掛けなおして訊ねた。
「なら、脂肪分が混じれば甘くなるとか？」
「それはないだろ。でも脂肪分に含まれているグルコースは糖質だから、可能性はゼロではないかも。案外と蓄えている脂肪分に影響されたりしてね」
こればかりは数をこなした俺にも、具体的なコメントは出来なかった。
なぜって、俺は前戯でしかクンニをしない派。
たとえ自分の性器とはいえ、一度挿入したその部分から流れ出る愛液を舐める気にはなれなれなかった。
特に激しく腰を振った後は愛液に空気が混じり、白く泡立つような感じになって潤滑剤としてはいいが、それを口にするのは……
「そんなに疑問なら、今度自分のを舐めてみたらいいじゃないか」
「やだ！だからシャルに訊いたんじゃないの。私は前戯でフェラはするけど、一度挿入した後はしない派だから」
「だよね」
確かにセリは一度俺が挿入した後は、決してフェラをやろうとはしない。
女の子の中には興奮すると言って、むしろ挿入後にフェラをしたがる子もいる。
俺的にはそんな女の子が頬張るシーンを頭越しに見るのがけっこう好きで、興奮度を増大させてしまう。
だからと言って、同じことをセリに強要するつもりもなかった。
「あぁ～残念。経験豊富なシャルだったら、具体的な答えをしてくれると思ったのに」
「いくら経験豊富だって、したことのないことには答えられないよ」
「そりゃそうよね。なら今度、最近付き合い始めた彼氏に訊いてみることにするは」
「そうしてよ。それで結果が出たら、俺にも教えて」
「もちろん。楽しみに待っていてね」
ざっくばらん過ぎる会話は、俺達の探求心を煽る。
既にセリは女友達が貸してくれた恋愛小説に目を落とし、俺は椅子を再び半回転させ、調べモノのためにキーボードをカタカタと打つ。
End
2018/07/15
Back表にしようか地下格納庫にしようか、少し迷った作品。内容に直接的なものはなく、会話のみ。探求心旺盛な会話ですが、取り敢えず表にすることに。将来的には地下格納庫に移動する予定。2011/05/11が初稿で、バックヤードに7年以上放置していた。今回UPするために、後半を少し書き加えました。