警告：一部性的表現が有ります。また不適切な言葉と差別用語がポンポン出てきます。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
「ボクはね、目の前に置かれたモノは何でも美味しくいただく主義なのさ」
そういう割りに、目の前の私を食べることを拒絶したヒソカ……
逆に私はあんたを食らってみたかったのだけど。
癪に障るものの、私はこのレストランの料理に魅了されていた。
いよいよ六皿目。
ウェイターが運んできた料理の説明をしてくれる。
「お客様。本日は飛び切り新鮮で、生きのよい喋るオバケカボチャが入荷いたしました。当シェフが腕によりをかけ、最高のお相手を選んでおります」
なぜこんな大皿に？
新芽を摘んだグリンサラダに盛り付けられた、直径十五センチほどのミニカボチャの皿が、私とヒソカの目の前に一皿ずつ置かれる。
特に調理された痕跡も見えず、これが料理と言えるのだろうか。
外見は少しオレンジ色がかった黄色の可愛らしいミニカボチャだが……お相手の意味が分からない。
ましてや最高と形容詞を付けられても……
「男性のお客様には♀の喋るオバケカボチャを。女性のお客様には♂の喋るオバケカボチャを。お味は満足していただけるものと確信しております。では、ごゆるりとお楽しみ下さい」
説明を終えたウェイターは、丁寧にお辞儀をすると部屋から出て行ってしまう。
目の前に置かれた料理に私は沈黙をしていた。
♂♀って、カボチャは雌雄異株の植物だったかしら？
確かに花としては雌雄別々に咲くけれど、実に♂♀などないはず。
どちらにしてもゲテモノレストラン。
喋るオバケカボチャという時点で、既に常識外。
まじまじと皿の上を見ていた。
この生のミニカボチャをどうやって食べろというのか？
「……クックックッ。かなり驚いているようだね。このカボチャは姿形こそカボチャに見えるけど、実は動物なんだよ。だから♂♀があると言うわけ。ただし動物といっても自分では動くことが出来ず、植物と変わらない生活をしているのさ。でも、こうすると……」
ヒソカはねっとりとした笑いを浮かべ、目の前に置かれた皿の上のカボチャを左手で少し持ち上げると、底の部分を右手の指先でゆっくりと愛撫するように撫ぜ上げた。
するとどこからともなく……
「あっ…うっ……」
まるで情事を連想させる艶っぽい吐息が聞こえてくるではないか。
思わず部屋の中を見回すが、ヒソカと私以外の誰かがいるはずもない。
ならばこの喘ぎ声の主は？
目の前のヒソカはカボチャを完全に持ち上げ、何を考えているのか底の部分を舌先で器用に舐めまわす。
長く器用に動く舌が卑猥に動く。
「……いやっ、気持ちいいの…もっとよ……くっ…、あぁっ……」
身悶えする女の声が部屋に響く。
それはヒソカによって弄ばれている、ミニカボチャの善がり声。
私は唖然とカボチャを見ていた。
「クックッ、面白いだろ。♀の喋るオバケカボチャはいつだって欲求不満なのさ。まるで誰かさんみたいだろ。だからこうやって悦ばせてやれば、どんどん熟れて甘く美味しくなっていくんだ。可愛いいじゃないか、人間の女と一緒で♪」
ヒソカはにんまりと笑いながら、まだ歔欷をあげている♀のミニカボチャを皿の上に戻す。
そして私の皿の上のカボチャを指差しながら、
「♂の喋るオバケカボチャはね、口汚く罵ってやればやるほど甘くなっていく特性を持っているんだ。出来る限りの罵詈雑言を浴びせてやるといい。でも逆に圧されてしまうと、コイツは調子にのってアクを出し、苦くて喰えたもんじゃない。美味しく食べられるかどうかはキミの悪口次第さ」
何てマゾヒストなカボチャなの！普通は罵声なんか浴びせられたら、ストレスが溜まってしょうがないと思うけど。
だからストレスにならないようにと、牛や豚にクラッシックの優雅な音楽を聞かせて育てる酪農家もいるというのに。
何て変態なカボチャなの！
（喋るオバケカボチャ血闘編）
ヒソカは♀のミニカボチャを相手に、猥褻な言葉を並べている。
たぶん今夜抱くであろう彼女にすることを、順番に言っているのだろうが、あまりにも卑猥で……聞いている私の頬と耳が赤くなってくる。
何て羨ましいヒソカの彼女。
その行為にはかなりのＳが入り、官能的で、身体の芯から疼きを覚えてしまう。
♀のミニカボチャは悦びのあまり身を捩じらせているのか、がたがたと皿が揺れる。
そしてもっと淫らなことを言ってほしいと懇願する。
もしかするとこの♀のミニカボチャ、だいぶＭが入っているのだろうか。
私は♂にＭが入っているのだから、♀はてっきりＳが入っているのだと思っていた。
……黄色味の強かったヒソカのカボチャが、濃いオレンジ色へと変わっていく。
ついには湯気のようなものが全身から立ち昇ったかと思うと、『ボン！！！』と音をたてて破裂してしまう。
大皿の上には、ばらばらになったミニカボチャの残骸が……
だから一回り大きな大皿に乗せられていたのかと納得をした。
部屋中に漂う濃厚で、甘みのある独特なカボチャの香りが食欲を刺激してくる。
ヒソカが次は私の番だと、目で合図をしてきた。
ならば私も♪
私は椅子から立ち上がり、気合を入れるために大きく息を吸う。
そして仁王立ちとなり、一気に罵詈雑言を吐き出す。
「この、腐れカボチャ野郎が！！メス豚にでも喰われてしまえばいい！どうせお前の腐った〇〇〇では、女の一人も満足させられないだろ！それに何て醜い姿！お前の存在自体が無意味なんだよ！喋るオバケカボチャだって！ならば気の利いた台詞の一つでも言ってみろ！どうせお前の頭の中は外見と同じ黄色い脳ミソで、ファックのことしか考えていないんだろ！このどスケベ野郎が！！」
すらすらと出て来る悪罵に、我ながら子気味良い。
カボチャは多少言い返してきたものの、私の悪口雑言に悶絶を始めた。
♀のミニカボチャ同様、全身から湯気を噴き出し燃えるよなオレンジ色になると、ガタガタと皿を揺らして自爆してしまう。
個室が熟れきったカボチャのこってりとした甘い香りに包まれる。
壁にまで飛び散った肉片……原形をとどめてはいなかった。
もう少し加減して言うべきだったのか。
大皿の上には僅かな果肉しか残らなかったが（しかも周りのグリンサラダは爆風でほとんど吹き飛んでしまっている）、それを指に直接掬い取り、思いっきり舌を伸ばして舐めとった。
なんて美味しいの！口の中が蕩けてしまいそう♪
それに毒を吐き出した清々しさに、身も心も解放されるようだ。
ヒソカが目を細め、私を見ている。
「どうだい？罵詈雑言で、日常のストレスを発散しただろ？この料理はね、ただ味覚として美味しいだけでなく、精神にも美味しさを与えてくれるのさ。より料理が美味しく食べられるようにと、シェフの粋な演出だよ」
ヒソカの言うとおりだった。
いつも溜まっていくだけのストレスを、一気に開放させたような気分で爽快感に溢れる。
確かにお相手としては最高の相手だ。
それにしてもお喋りオバケカボチャとはよく言ったもの。
どこに口があるのやら。
それにどうやって♂と♀を見分けるのか？
ヒソカがにやりと笑って教えてくれた。
「♀はね、底に小さな穴が開いているんだ。刺激してやれば硬くて小さな穴が、柔らかく大きな穴に変化する。それにトロトロとした甘い分泌物を穴から出すんだ。とても美味だから、熟れ過ぎる前に堪能しないとね。♂は逆に、小さな突起物が底に付いている。これも刺激すれば大きく硬くなるってわけ♪」
それなら先ほどヒソカが舐めていたのは……
学術的な回答とは言えないが、何と奥の深いゲテモノ料理の世界！
凝り性の私には、しばらく嵌まってしまう世界かも♪
そうだ！！
後でヒソカに、このレストランのメンバーになれるように頼んでみよう♪
何事も、美味しくいただくということは……五感に訴えるということらしい。
何事も、美味しくいただくということは・・・（喋るオバケカボチャ血闘編）関連作品
何事も、美味しくいただくということは・・・END
2017/07/19 改稿
2009/11/30
Backもちろんウェイターが、七皿目を運んでくる前に部屋を片付けてくれました。部屋中に飛び散ったものは、内臓か脳みそか？もちろん両方です。血闘と言いつつ、一方的な戦いでした。