警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
遣らずの雨＝訪れた恋人を帰さぬように降る雨。
天井まである重い掃き出し窓が、少しだけ開く音がする。
すっと吹き込んでくる外気は、高い湿度を含んでいた。
そろそろか……
室内に居てもオレの髪がサラッとせず、シャワーを浴びたばかりなのに、嫌なべたつき感があった。
開いていた窓がピシッと音を立てて閉まったかと思うと、背後から甘く舌ったらずなネムの声が聞こえてきた。
「ノブナガー、雨が降っきたよ」
ついに降って来やがったか。
スツールに腰掛けテレビを見ていたオレの首に腕を絡ませ、ネムが全体重を背中にかけてくる。
「重いんだよ」
ぶっきらぼうに言ってみたものの、小娘一人の体重なんぞたかが知れている。
「ウッソ～。ネムは４２キロしかないんだから、重いわけないよ～」
案の定語尾を伸ばした答えに苦笑いをしようとしたが、それよりも早く絡ませていた腕にギュッと力をこめ、豊満な胸をわざと押し付けてきた。
素肌の上に袖を通しただけの男物のワイシャツで、つんと立ち上がった乳首を擦り付けてくる感触が、腰にバスタオルしか巻いていないオレの背中に、直に伝わってくる。
しかも挑発するように、人の耳を甘噛みまでしやがって。
これが１４歳のガキのやることか……もっともこんな悪さを一から仕込んだのはオレなんだが……
しかし何だってこんな青臭い小娘と付き合うはめになってしまったんだ。
それもご丁寧に、オレが初めての男になってしまうとは……
オレの 好みはぐっとくる、大人の女だったはず。
裏通りの隠れ家的なバーのカウンターに、一見の客どおし偶然並んで腰掛ける。
オレはバーボンを注文し、女も同じものを注文する。
酒の好みが同じということで、そこから二人の会話は自然に始まる。
薄暗い照明の中で美しい女は、顔にかかった黒く艶やかな髪を気だるげに掻き上げる。
たったそれだけの仕種が、オレの雄を刺激する。
だが女も同様に、欲した熱い視線を向けてくれる。
酒を飲むのもそこそこに、１時間後には女の傘に身を寄せ、近くの安ホテルにしけこむ。
この場合、高級なホテルは必要ない。
何しろ二人は早く一つになりたいのだから、予約無しの目に付いたホテルに飛び込むのは当然の成り行き。
そしてシャワーを軽く浴び、すぐにモデルばりの身体を開きベッドに縫い付ける。
後は思う存分啼かせ、互いに満足しあうだけ。
朝がくれば後腐れなく別れる。
……これがオレの理想とする女との関係。
だが理想と現実は違っていた。
よりによって最近までランドセルをしょっていたガキと……
オレは自分の愚かさを笑いたかった。
ネムを連れて街を歩けば、父娘に間違えられたことがある。
すれ違った中年女が、『まぁ、若いパパで羨ましいこと』だと！
ふざけたことを抜かしたあのババァを、一刀両断にしてやりたかった。
ネムは人の気を知ってか知らずか、ケラケラと笑っていたが。
オレは あごひげのせいか少し老けて見えるが、まだ２８だ。
物理的に１４歳の子供を持つ父親には無理がある。
いやっ、可能性はなくもないが、 たとえ年相応な子供を連れていたとしても否定する。
オレは今まで恵まれぬ子どもを作らぬためにゴムの着用を忘れず、細心の注意を払って楽しんできた。
だからネムと交わる時も装着をかかさない。
これはオレのためと言うよりは、オレの可愛いネムのため。
今、視野の中にあるベッド脇のゴミ箱にも、つい先ほどまで使用した残骸がいくつか捨ててある。
ガキにガキを産ませるわけにはいかないから。
身長１５０センチ体重４２キロは、１４歳の平均から比べればやや小柄といえる。
だが小柄な体格と幼さい顔立ちとは逆に、アンバランスな肉体を持っていたネム。
脱げば『私、すごいんです！』というやつだ。
ふつう若くても巨乳となれば引力に負けてくるものだが、ネムに関しては見事な弾力とハリがある。
しかももち肌ともいえる肌は、掌に吸い付いてくるようだ。
オレの開発に目覚しい成長を見せ、半年の間に最高の楽器に育ってくれた。
童顔からは想像できないエロティックな表情に、悩ましい啼き声を奏でる。
一言で言えばコケティッシュ。
普段は品行方正によい子で学校へ通っているが、オレだけに見せる小悪魔的な姿態に、いい年をしたオレは翻弄されてしまう。
後ろから回されたネムの腕をほどき、オレは立ち上がりながらネムを窓越しで抱きしめた。
ぽつぽつと降り出す雨は、見る間に表のテラスを黒く濡らして行く。
オレは灰色の雨空を見上げた。
「こういうのを遣らずの雨っていうのさ」
「やらずの雨？」
ネムは聞き慣れない言葉に首をかしげ、
「ウッソ～。さっきまで、散々やったじゃない」
ネムのボケをかました返事に大笑いをしてしまうが、当の本人は何を笑われたのか分からず、頬を膨らませる。
「遣らずの雨って言うのはな、女が男を想って降らす雨のこと。 この場合の『遣らず』は人を遠くに行かせないという意味だ。 つまり惚れた男を自分の元から帰さないと言っているんだ。解ったか？」
オレは少々持ち合わせた教養をひけらかす。
するとネムはにっこりと笑い、可愛い言葉を口にした。
「ならば今日も泊まっていくよね、ノブナガ」
「そうだな、もう一度続きをやるか？」
嬉しそうにこくりと頷いたネムを抱き上げ、再びベッドへと運ぶ。
ネムの胸に突き刺さる気持ちが痛いほどよくわかった……
『……今日は泊まっていくよね』
いっけん年上の恋人を誘う淫らな言葉……それは寂しさを持て余した言葉にほかならない。
金に不自由はしないが、仕事に生きがいを感じて忙しく働く母親。
どうしようもない孤独がネムを襲う。
心にぽっかりと開いた穴を埋めてやれるのは、オレしかいないことを知っていた。
たから優しく……寂しさを忘れさせようと啼かせしまう。
ネムと付き合い始め数ヶ月たったころ、オレとフィンクスとシャルとで女の話しになった。
二人はオレと付き合い始めたネムの年齢に驚いていたが、シャルが『案外と上手くいくんじゃないの』と言った。
その時は総毛立ったが、今にして思えばそのとおりだった。
今夜も母親は帰ってこない……
腕の中で疲れ切って眠るネムを抱き、オレも心地よいぬくもりを感じながら眠りにつく。
遣らずの雨 関連作品
遣らずの雨、雨宿りにてEnd
2016/06/01 改稿
2009/09/04
Back硬派ノブナガの惚気です。二人の経緯は『遣らずの雨、雨宿りにて』で明らかに。