警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
あの日、突然やってきたクロロ＝ルシルフル
初めて出合った彼は、その日から気になる人になった
出来ることならば、もう一度彼と出会えますように
後日談昼下がり、私達は店の奥にあるレジカウンターを挟み、雑談をしていた。
「クロロ＝ルシルフルって、あのクロロ＝ルシルフル！！」
女友達は興奮し、腰の高さより高いカウンターを乗り越えて来そうな勢いだ。
「……そう。たぶん、あのクロロ＝ルシルフルよ」
「そうよね！あのクロロ＝ルシルフルよね！クロロ＝ルシルフルなんて名前、そうあるもんじゃないわよね！」
女友達のしつこい『ね！ね！ね！』攻撃。
私は幻影旅団の団長クロロ＝ルシルフルが、数日前うちの店にやって来た事を彼女に話した。
流星街において幻影旅団は伝説的な存在で、その団長ともなれば更なる伝説。
なにせ流星街の中でも最悪と言われるZ地区を根城に、子供達のグループだけで生き残り、盗賊集団となって流星街の外に打って出たのだから。
しかもA級賞金首になるまでの大出世。
でもほとんどのメンバーが生活拠点を流星街の外に移しているため、彼らと出会うチャンスはゼロに等しい。
年寄り連中の間では、流星街に馴染まぬ幻影旅団を異質な存在として見る向きもあるが、私達若者の間ではヒーロー的存在。
特に女性の間では、幻影旅団の男性メンバーに憧れを秘かに抱く者も多い。
何故かと言えば、現在の彼らのステータスに強い憧れを感じているから。
まずは成功した盗賊ということで、有り余る資産を持ち（たぶん持っているはず）、個性溢れるイケメンが揃っているということ。
出来れば男性メンバーの目に止まり、恋人もしくは愛人となって流星街を離れ、安穏な生活を送りたい。
あわよくば玉の輿となり、さらなる贅沢三昧。
その上彼らは……もの凄いテクニシャン揃いだと耳にする。
ここが最も重要なポイントだと、女友達は言う。
かって彼らが流星街を根城にしていた時、数多の恋愛話しと性列伝が生まれ、今も語り草になっている。
幻影旅団一の性豪と謳われる巨漢ウボォーギンは、馬並みのアレで、五十人の娼婦が居る娼館で三日三晩やり続け、全娼婦の腰を立たなくさせたとか。
Ｓとして有名なフェイタンは、苦痛と快楽の極地を生み出す天才だそうだ。
痛みの中にオーガズムを求める一部の女性にとって、意慾の存在で、もしかしたら神に匹敵するかもしれない。
そして幻影旅団でもっともイケメンと言われている団長クロロ＝ルシルフルには、甘く切ない恋物語が多数ある。
真実は藪の中だけど、官能的で切ない恋が女心を擽るのだ。
しかも枕詞のように使われる、ベッドでの婀娜やかなるテクニック。
関節は若干節くれだっているが、長く靭やかな指が縦筋に沿わせられるだけで、蜜が止めどもなく溢れ出てしまう。
更に襞をかき分け膣を楽器のように奏でる指技は、イキっぱなしにさせられてしまうとか。
どれもこれも、まるで官能小説のようだ。
全て体験者から直接聞いた話しではないのに、話しだけが一人歩きし、彼らとのセックスに妄想を広げてしまう女性が多い。
それだけ彼らの存在がミステリアスなのだ。
目の前にいる女友達も例外ではなく、発情した肉食獣のようにクロロ＝ルシルフルの名前に食いついて来た。
「それでクロロ＝ルシルフルって、どんな男？噂通りのイケメンだった？それでこの店には何のために来たの？」
女友達は目をギラギラとさせ、矢継ぎ早に訊いてくる。
「どんなって……一言で言えば評判通りかな。背も高くて見栄えのする男性。外見にマイナス要素はないと思うけど。何のは、それはうちが薬局だからでしょ。彼、コンドームを買いに来たのだから」
女友達の顔が興奮で上気する。
「キャー♪コンドームですって♪わざわざ買いに来るなんて、つまりクロロ＝ルシルフルは、それを使う相手と流星街に戻って来てるってこと？それとも流星街に彼女がいるのかしら。なんて羨ましいの。私だっらナマでも大歓迎なのに♪」
「ナマって……」
女友達の言葉にカチンときた。
野心家である彼女の言う『大歓迎』は冗談では無く、本気だと分かっていたから。
子供が出来れば恋人から妻の座に昇格出来るかもしれない。
何故だろう……
今更ながらクロロ＝ルシルフルが言っていた、『俺って回復力が抜群だから、たくさん欲しいわけ。色々使って、どれが感触がいいか試してみたいんだ』の言葉に、胸が痛くなってくる。
あれは女友達が言うように、特定のお相手がいるという意味なのだろうか。
コンドームの数だけ愛し合ってる……
目の前のカウンターに、クロロ＝ルシルフルが置いたコンドームの山がフラッシュバックする。
彼に大切にされている女性がいるのだと思うと、何だか複雑な気分だ。
そんな心境の私にはお構いなしで、女友達の質問が追討ちを掛ける。
「それでどんなタイプのコンドームが彼の好みなの。それにサイズは？」
『好み？サイズ！』我に返った私は、唾をゴクリと飲み込む。
「サイズって？」
「何すっとぼけてるのよ。もちろんクロロ＝ルシルフルのチ〇コのサイズに決まっているでしょ！コンドームのパッケージを見なかったの？」
店には私達だけだったとはいえ女友達の大胆発言に、こちらの方が恥ずかしくなって来る。
いくら彼女の家が小さいながらにも、この地区では代々続く老舗の娼館を経営しているとはいえ、もう少し品良く言って欲しい。
「……ア、ア、アレのサイズね。ごめん……私、商品を包むのに忙しくて見てなかった」
私は恥ずかしさあまり、しどろもどろだ。
「エッ！見てなかったの！そこが肝心なんじゃないの！思い出してよ！思い出して！！」
ランランと目を輝かす女友達に、Sサイズだと言いそうになったところを押し止め、
「……確かＬサイズだったような気がする」
そう口にすると、目の前の顔が満足の笑みを零す。
そして右手の親指と人差し指が離れた輪を作り、太さを確認するような仕草をする。
「やっぱりね♪いい男って、持っているモノも違うのよ。馬並みと言うのも興味あるけど、壊されそうで怖いから、やはり男の理想はＬサイズよね♪」
『よね♪』って、私に同意を求めている？
それはあなたの理想であって、私の理想じゃないと言いたかった。
愛情があればサイズなんて関係ないはず。
確かに伝説で語られるクロロ＝ルシルフルは沈着冷静で、残忍なところもあると言われているけれど、店にやって来た彼は気さくで温かみのある人だった。
Ｓサイズである事を気にするわけでもなく、むしろ堂々と商品を求めた。
私はそんな彼に好感を持ってしまっている。
それなのに、事実に反してＬサイズと答えた私は何なのだろう……
ならば正直にＳサイズと言うべきだったのか。
私は矛盾というジレンマに頭を悩ます。
女友達はクロロ＝ルシルフルに始終した。
商品を売っただけなのに、私のことを羨ましいと言う。
今度クロロ＝ルシルフルが店に来たならば、直ぐに連絡をくれと念を押し、彼女は帰って行った。
今度……今度って、いつだろう?
少なくとも当分は、コンドームを買いに来るとは思えない。
いつ……いつかどこかで出会えたなら、彼は私のことを憶えているだろうか?
そんな取り留めのない事を考えながら、彼によって空となった棚に、入荷したばかりの商品を補充する。
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End
2017/04/03 改稿
2013/10/27
Backシャルナークのささやかなレジスタンスが、全然レジスタンスになっていないという事実……