Syarnorke 74
警告：一部性的表現が有ります。苦手もしくは不快を感じられる方はお避け下さい。
『kiss me 俺が好き？』はNOVEL『kiss♡kiss♡kiss（クロロ）』のスピンオフ作品です。先に『kiss♡kiss♡kiss』を読まれることをお勧めします。
リックスが枕探しで昏睡強盗をしていることは出会う前から知っていたが、噂と興味本位な話しが多く、信憑性にかけていた。
彼女は犯罪ネットの中で、犯罪者が会ってみたい女性の同業者ランキングで、常に３位以内に入るというアイドル的存在。
警察に捕まったことがないので本名が発表されず、仕事をしても同じ偽名を二度使うことがなく、呼び名が数えきれないほどあった。
盗んだ金品も実に上手くマネーロンダリングするため、どこの誰であるかを掴ませない。
ハンター専用のサイト『狩人の酒場』でも、データー不足で正体が分からずじまい。
そこで犯罪者達はリックスを、レディーＬとネット上で尊称を付けて呼んでいた。
群れることのない一匹狼。
普通この手の犯罪は美人局を兼ねている場合が多いので、グループで仕事をすることが多い。
だがリックスは単独犯なので情報が漏れづらく、ミステリアスな存在。
枕探し自体は犯罪の中でも下位な仕事とされているが、リックスの仕事は鮮やかさを極める。
手口は獲物と知り合ったその日に行われることが多いのだが、用心深い相手には罠を張り、数日かけて仕事に及ぶ場合もある。
獲物との接点を自然な流れで作り、一晩のアバンチュールへと誘いこむ。
往々にして、ホテルのバーやラウンジなどがリックの狩場。
餌はもちろんリックスの肉体なのだが、獲物の好みに合わせた会話を瞬時に生み出すことが、仕事成功への秘訣。
容姿端麗ではあるが、それ以上に会話の面白さから警戒心を剥ぎ取り、男の本能を剥き出しにさせてしまう。
後は２人っきりになれば仕事は完了したも同然。
リックスが積極的にキスをしてしまえば能力が発動される。
一般の昏睡強盗のようにチャンスを狙い、ビールなどの酒類に睡眠薬を入れるなんて面倒なことはしなくても、キスをすれば相手を深い眠りに落とせるのだから楽なもの。
これから情事を楽しもうという男女にとって、キスをするのはごく当たり前のこと。
しかも最初に行われる行為。
後は密室で、深い眠りに落ちた獲物から金品を奪えばいいのだ。
色欲が多い男のおかげで、リックスは稼ぎまくることが出来る。
それにこの手の犯罪は男の助平心を上手く利用しているため、被害者としても訴えづらいものがあり、表ざたになる事件はごく僅か。
犯罪掲示板には、正体の見えないレディーＬが話題になっていた。
俺がレディーＬの情夫だとか、俺がレディＬーに性技を仕込んだのだとか、捏造された書き込みが至るところに溢れている。
中にはレディーＬとセックス中だといって、行為真っ最中の画像を添付する奴までもいるほどだ。
もちろんリックスとは似ても似つかぬ女が映っていたけど。
男共のあまりにも低俗な自己アピールに失笑してしまう。
枕探し犯のリックスと関係を持つということは、男の犯罪者にとってステータス的要素があるらしい。
また私がレディーＬだと、売名行為の女犯罪者も多い。
リックスほどではないけれど、概ねは美人。
謎の多いレディーＬという名前は一人歩きを始め、関連の書き込みがない日はないくらいになっていた。
俺も犯罪者として多少の興味はあったけど、まさか本人と出会うとは思ってもいなかった。
ましてや彼女とセフレになろうとは。
俺が好き？
一流ホテルのバーカウンターの椅子に腰掛け、足を組んで妖艶に微笑んでいたら多少警戒もしただろう。
裏路地にある定食屋で化粧もせず、一人で豪快に食事と酒を飲んでいた女の子がレディーＬだったなんて。
それがリックスとの出会い。
俺好みの容姿ではあったけど、その時は下心があったわけじゃない。
店が混んでいて、たまたま相席になった俺の話し相手になってくれないかと思っただけ。
そう……下心はないけれど、話し相手にはなって欲しかった。
その時俺は３日間の乱痴気騒ぎで毒気を抜かれ、出涸らし状態。
何か精の付く物を、誰かと楽しくしゃべりながら食べたかった。
何故なら４日前に大仕事を済ませ、祝宴と称してクロロ・フィンクス・ノブナガ・ウボォーと俺の５人で、高級娼館に繰り出していたのだ。
クロロの粋な計らいで、娼館は丸３日間の貸し切り。
総勢２０名の美女軍団と、酒池肉林の時間を過ごしたというわけ。
最高の性技を習得した女の子達のサービスは極楽といえた。
しかも政府公認の五つ星は、女の子達が安全であることを保障している。
従ってかなりの高給取りとしてプライドも高いが、客に対する接待は超一流。
素人相手では憚れるような行為も、玄人相手に遠慮することなく行った。
オージープレイなんて当たり前で、俺達は複数の女の子を相手に互いのテクニックを競い合う。
貸し切りをいいことに刺激を求め、待合になったホールや階段など、共用部でシチュエーションを変えて楽しんだ。
まさに遣る・食べる・寝るの３日間で、この間服を着た記憶がない。
最後には、いくら女の子達が濃厚なサービスをしてくれても、肝心のモノが勃ってくれなくなってしまう。
もちろん俺だけでなく、クロロ達も同様。
体力自慢の強化系ウボォーですら、足腰が立たないほど。
精も根も尽き果てるとは、こういうことを言うのだろう。
そして今朝、快楽の狂宴も幕が引かれ、自分達の本来居るべき場所へ戻ることになったのだ。
俺も隠れ家に戻ろうとしたところ、予約していた飛行船が目的地の天候が悪くて欠航となり、この地でもう一泊することになってしまう。
急遽空港に一番近いホテルを予約し、早めにチェックインを済ませた。
夕食にはたいぶ早く、部屋のベッドで寝転びながら携帯をいじっていたのだが、この３日間の強行軍のせいか、いつのまにか深い眠りに落ちてしまう。
目覚めれば５時間以上も寝てしまい、ナイトテーブルに備えられた時計はｐｍ８：００になっている。
俺にとっては『５時間も寝てしまった……』 と言うべきところなのだが、疲れがまったく抜けていないことに苦笑した。
つまり遣り過ぎたということか……
俺は気持ちだけでもすっきりさせるためにシャワーを浴び、急ぎ身支度を済ませ、夕飯を食べるために街中へと繰り出す。
本来ならゆっくりと夕飯をホテルの中のレストランで食べてもよかったのだが、堅苦しくディナーを食べるより、ラフな格好で予約をしなくても、気軽に入れる街のレストランで定食をかっ込みたかった。
その日は金曜日の晩で、人が溢れかえる街中を歩きながら、携帯で美味そうな口コミ情報の出ているレストランを探す。
時間的には一番飲食店が混んでいる時間帯。
検索でひっかかった店は全て満席で、外には行列が出来ている。
５分でも待たされるのは性に合わず、表通りから目に付いた路地裏の小さな店に飛び込んだ。
そこもほぼ満席だったが、相席でもよければと、ウェイターが勧めてくれたテーブルの先客がリックス。
ともかく腹が空いていて、早く席に着きたかった。
ウェイターが相席を頼むと、リックスは口をナフキンで拭きながら俺の方をちらりと見て、軽く頷きＯＫサインを出してくれる。
俺が会釈をするとリックスも軽く会釈を返し、再び食事を始める。
同じテーブルに着いたのも何かの縁。
ウェイターがメニューと水の入ったグラスをテーブルの上に置いて行くと、目の前で美味しそうに食事をするリックスに話しかけた。
「ねェ、君？食事中に悪いんだけど、君の食べている美味しそうな料理は何ていうの？」
俺はメニューを広げながら訊ねた。
すると女の子は警戒することなく、フォークとナイフを握ったまま顔を俺に向け、気持ちよく答えてくれる。
「メニューの２ページ目にある、メインがグレイトスタンプ豚のカツセットよ。オニオンスープにグリンサラダと今日のデザートがセットになっているから。今日のデザートは、レモンジェラートとコーヒー。それに別注文で、クモワシのタマゴの黄身を使ったミモザサラダ。ワインはパドキア共和国のバックスワイナリーの赤ワイン」
「へェ～。このレストラン、一流レストラン並みの食材を揃えているんだね」
俺が声を潜めて言うと、
「なんて言ったって、この街は美味しいレストランが集まっていることで有名だから、どの店でもこの程度の食材は揃えているわよ。問題なのは価格ね。美味しくて値段が高ければ当たり前。品質を落とさず、どれだけ安く提供できるかが勝負ってとこかしら」
言われるがままに、メニューの価格を見た。
確かに言うとおり、どれも使われている食材の品質を考えると安い。
メインだってかなりのボリュームだし。
グレイトスタンプを使って４，２００ジェ二ーのコース料金は破格だ。
これが俺の泊まっているホテルだったら、軽く２５，０００ジェニーは取られるだろう。
「君の言うとおりだね。すごいお得感があるよ。俺も、君と同じセットを頼むことにする」
その時だった。
俺の腹の虫が恥ずかしくも、大きな声で鳴いてくれる。
当然目の前のリックスにも聞こえてしまい、互いに顔を見合わせ大笑い。
注文した食事が順次運ばれ、リックスとの会話が弾む。
ほんの少し前に出会ったばかりなのに、１０年らいの友人のよう。
話しは食べ物から始まり、旅の話しへと気さくに展開してゆく。
よく話し、よく笑い、よく食べ、全てが好印象。
特にリックスの食べ方はダイナミックで気持ちがいい。
普通女の子は男と食事をする場合、特に初めて食事をする相手とは上品ぶって食べ、それは見ている側に不味そうな印象を与える。
そのうえ髪を掻き上げたり化粧落ちを気にするものだから、こちらの食欲が減退してしまう。
だが目の前のリックスは長い髪を後ろで一つにまとめ、食事の邪魔にならないように気を使っている。
それがよく分かるのは、そっけない黒ゴムで髪をまとめていること。
派手ではないが、センス良くまとめられたジーンズ姿。
それなのに髪だけが、１００ジェニーショップで買って来たような黒い輪ゴムで留められている。
たぶん食事を快適にするために、いつも髪留め用に持ち歩いているのだろう。
なんて潔い性格なんだ。
そのうえ豪快に食べているくせに、食べ方がとても綺麗だ。
たぶんそれはマナー通りに食べていることと、姿勢が美しいからだと思う。
俺は思わずリックスにつられ、食欲が刺激を受ける。
食欲が増せば会話にも花が咲き、更に楽しい食事となる。
俺はリックスが注文した赤ワインの御相伴に預かった。
何でもワインを注文したのは、仕事が上手くいったお祝いなのだと話してくれた。
何の仕事かと訊ねたが、上手くはぐらかされてしまう。
俺も仕事が最高に上手くいったのだと話せば、何の仕事かとリックスに訊ねられる。
だから俺もはぐらかせば、不満たっぷりに頬を膨らます。
その可愛らしい表情が実にいい。
俺はリックスに失礼がないように、話しながら彼女の顔をじっくりと観察する。
表情豊かな顔はすっぴんだが、実に整った顔をしていた。
元々が美人なのだから、化粧をすればさぞかし映えるだろう。
会話もそつなくこなすが、変に知ったかぶりをしないところがいい。
むしろ分からないことは素直に訊いてくるし、話し上手と言うより聞き上手なのかもしれない。
そのくせ突っ込みは鋭い！
時間とは無情だ……どんなに楽しい一時も、終わりがあると言うこと。
コースの最後に出されたコーヒーを飲み終えた時、リックスは俺に付き合うために、２杯目のコーヒーを飲んでいた。
店は閉店の時間を迎える。
テーブルに置かれた彼女の伝票を手にしようとするとそれを遮り、自分の食べた分は自分で払うからと、リックスは頑として受け入れなかった。
無理強いすることも出来ず、テーブルで互いに支払いを済ませることに。
そして店最後の客として、２人揃って店を出た。
賑わっていた裏路地も、だいぶ人通りが少なくなっている。
ここでお別れか……
リックスも俺同様、明日の朝に空港から飛び立つ人間だった。
行き先を互いに訊ねることはなかったが、何気なく泊まるホテルを訊ねれば、俺の泊まるホテルから大分離れたホテルを予約していた。
『さようなら。とても楽しかったよ』 の一言が上手く切り出せない。
ならば、『楽しかったは。さようなら』 の一言が欲しかったのか？
後ろ髪を引かれる思いに、俺は自問自答する……何で口説かない？
今夜の俺は下心がないから？ただ純粋に、話す相手が欲しかったから？
確かに最初はそうだった。
だけど……自分のずるさに辟易としてしまう。
俺は今、この女の子を欲している。
それも滅茶苦茶に欲しい。
ここで別れてしまえば二度と会うことはないだろう。
そう考えた瞬間、俺は行動に出た。
俺はリックスの手を握り、表通りには出ず、人通りのほとんどない路地裏の奥へと向った。
リックスが抵抗しなかったことが嬉しかった。
俺はつい強く握ってしまった手を途中で緩めると、今度はリックスの手が力を籠めてくる。
……本当に？
あえて言葉にはしなかった……俺が好き？
たぶん俺と同じ気持ちなのだと自分勝手に決めこみ、ずんずんと路地裏を突き進む。
今にして思えばリックスには、キスという最大の武器があったのだが、その時の俺が知るよしもない。
何しろ俺は股間を張り詰めさせ、リックスを抱きたくてしょうがなかったのだから。
道はいくつかの枝葉に分れるが、俺達は人気のいないどん詰まりの場所へと入り込む。
錆びた鉄骨の非常階段が取り付けられた、古い煉瓦造りの建物の下にリックを連れてゆく。
幸いにして、この路地裏を見下ろす窓には明かりが灯されてはおらず、近じかビルは取り壊され、新しくビルが建つこと示す建築の看板が、ビルの外壁に掛けられていた。
俺はこれ幸いと、無人になった煉瓦造りの壁を背に、リックスをそっと抱きしめる。
リックスは一瞬戸惑ったものの、俺の気持ちに応えるように俺の背に腕を回す。
そして当然のように、見上げてきたリックスの唇にゆっくりと俺は触れた。
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END
2018/05/07 改稿
2010/06/05
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