「シャル！聞いてよ!」
「あぁ……」
「ちゃんと私の方を向いて、話しを聞いて！」
「それは無理。俺は今、見てのとおり調べ物で忙しいんだから」
机の上に置かれたパソコンと睨めっこ。
クロロに頼まれた仕事をしている真っ最中。
いきなり俺の隠れ家に飛び込んで来たシオンに、遠慮というものはない。
隠れ家という言う以上、俺が認めた人間しかこの家に出入りは出来ないはず。
なのにシオンは……
ちなみに付き合っている女の子で、隠れ家と名の付く場所に招いた娘はいない。
……で、シオンだって、出入りを許しているわけじゃない。
なのにこの隠れ家といわず、俺の隠れ家全てに顔を出す。
これでは隠れ家の意味がないだろう……
だいたいシオンに隠れ家の場所なんか教えていないし、鍵を預けるなんて愚劣な行為もしていない。
なのに招かざる客は、扉をノックすることなくいきなりやってくる。
「シャルってば！！」
俺の都合なんかお構いなしに、俺が腰掛けている作業用の回転椅子を強引に回し、自分の側へと向ける。
そこにはにっこりと微笑むシオンがいた。
「あのね、シャル///」
鼻にかかる甘え声を手で制し、俺はシオンを睨みつけた。
「本当に、いい加減にしろよ！こっちは仕事をしているんだから、邪魔しないでくれるかな！」
俺の威迫なんかどこ吹く風。
それどころか……
「酷いよシャル。何もそんな言い方をしなくてもいいじゃないの。私はシャルに大切な話しがあって来たのに」
半分涙目の大きな目を瞬かせ、ぽってりとした唇を濡らし、悲し気に俺を見詰めてくる。
これがシオンの常套手段。
並みの男なら、これだけで簡単に尻の毛を抜かれるだろう。
そのくらいシオンは表情は魅力的だ。
だが生憎と俺は、可愛さに騙されるようなタマじゃない。
いつだって大切な話しの中身は、観たい映画に連れて行ってくれとか、美味しいケーキ屋を見付けた程度の話し。
今まで散々我慢してきたが、今日という今日は言ってやる！
我儘なシオンは、俺と同じ念能力者。
念能力はどこかのマンガにあるような、扉を開ければ好きな所へ行けるというもの。
ただしどこにでも行けるわけじゃない。
自分と出合ったことがある人間の、今いる場所に出現出来るというもの。
ある意味便利と言えば便利だが、煩わしいと言えばこの上なく煩わしい。
おかげで女の子とＨの最中、何度妨害をしてくれただろう。
その時の悲惨な状況を思い出すだけで腹が立つ。
それでも今まで我慢してきたのは、俺の妹的存在だからだ。
シオンはクロロが流星街時代において、最後にゴミ山から拾ってきた子供。
正しくは拾って来た子供は何人かいたが、俺以降生き残れたのはシオン一人。
歳も一番近かったせいか、シオンは他の仲間より、俺に一番懐いてきた。
仲間達も俺とシオンの顔立ちが少し似ていることから、迷惑にも兄妹扱いをしてくれる。
おかげでどこに行くにもシオンはついて来る。
可愛いと言えば可愛いが、鬱陶しいと言えばこのうえなく鬱陶しい。
大人になった今になれば、ウザイ以外のなにものでもない。
俺達はもう子供じゃないんだ。
プライベートがどれだけ大切か、シオンに叩き込む必要がある。
「五月蝿いぞ！シオン、大概にしろ。お前はずうずうし過ぎるぞ！」
俺より先に怒鳴ったのはクロロで、俺も驚いたが、シオンは目を大きく見開き、全身を硬直させた。
ソファーで横になって寝ていたはずのクロロが起き上がり、寝癖のついた髪に手櫛を入れながら、こちらを不愉快そうに見ている。
「……人が気持ちよく寝ているところで、ぎゃあぎゃあ騒ぐな。迷惑千万だ！」
極度に顔を強張らせたシオンが、ぎこちなく声のする方に振り返る。
「クロロ、居たの！！？」
声がひっくり返るとは、こういう声を言うのだろう。
俺はおかしさを堪えながら、二人のやりとりを聞いていた。
「居て悪いか。後からこの部屋に入って来たのはお前の方だぞ」
「……」
シオンは念能力でいきなりこの部屋に飛び込み、クロロが寝ているソファーを背にし、まったくその存在に気が付いていなかった。
返す言葉を失ったシオンは、クロロの機嫌を取るように必死に笑顔を作るが、口元が引き攣るだけで、いつもの小悪魔的な笑みを作ることが出来ない。
「シオン、こっちに来い！」
逆らうことの出来ない命令に、ソファーに腰掛けるクロロにおずおずと近づくシオン。
あと一歩というところでクロロの腕が伸び、シオンの腕首がぐっと掴まれる。
一気に引き寄せられたシオンはバランスを崩し、クロロの太腿の上に腹から落ちる格好になってしまう。
華奢な肩を後ろから大きな手が押さえつける。
身動きが取れなくなった体勢から逃れようと、シオンは必死に身体を捩ろうとするが、体術を極めたクロロ相手では意味を成さない。
「シオン！あれほどシャルナークの邪魔をするなと言ったのに！何度同じことを言っても分からない奴にはお仕置きだ！！」
「ごめんなさい！クロロ！許して！」
クロロは泣き叫ぶシオンのスカートを背中まで捲り上げ、ピンクの小さな下着を腿まで一気に下ろす。
現れた肉付きの良い尻を、クロロは容赦なく平手で叩く。
乾いた破裂音が部屋全体に響き、見る間にシオンの尻に、赤い掌の形をした花が幾重にも咲く。
そういえば昔、シオンはこんな風に、よくクロロに怒られていたっけ。
クロロが女の子に手を上げるなんて、シオンだけだ。
シオンは我が強く、人の言葉に耳を貸すことがほとんとなかった。
それにへそ曲がりなところもあり、集団行動を多々乱す。
子供のころはグループで結束することが、悪辣な環境で唯一生き残る手段であり、利己的な者は追放されるべき存在。
それでもクロロはシオンを俺達のグループから追い出すことはせず、根気良く面倒をみていた。
マチやパクは半分呆れ気味で見ていたけれど。
自分勝手で怖いもの知らずのシオンが１３歳になった時、他地区の奴らに集団で解剖されそうになった。
間一髪で助けたのはクロロ。
相手の悪ガキ共は、クロロに半殺しにされてしまう。
がたがた震える半裸のシオンを優しく抱きしめ、宥めていたクロロ。
あの日を境に、人の言うことを大分聞くようになった。
特にクロロには、逆らうことはなくなったように思う。
その証拠に、クロロが手を上げるのを久々に見た。
「ごめんなさい！ごめんなさい！クロロ！もう、二度としないから！」
クロロの振り下ろされる手が、ふっくらと張りのある尻にぶつかる瞬間でやっと止り、シオンを開放する。
立ち上がったシオンは一度だけ尻を擦り、腿までずり落ちた下着を急いで元の位置に戻し、捲れたスカートを整える。
「シオン。今度シャルの邪魔をしたら、お前の念能力を貰うぞ。それが嫌なら本人の許可がない限り、シャルの前に顔を出すな」
低い声で言い放つクロロに、涙を流しながら頷いて、逃げるように部屋から消えてくれた。
ほっと胸を撫で下ろす俺に、
「あまりシオンに優しくするな。あいつは気は強いが、依存性も高いのだから」
だから、あいつのためにはならないって、そんなことは俺だって分かっているさ。
暇な時は別として、出来る限り構わないようにしているけど、シオンが俺のところにやってくるのは……
誰のせいだと言ってやりたかったが、当のクロロはソファーに寝転び、本を読み出している。
もうこうなると、いくら話しかけても相手にはしてもらえない。
俺は再びパソコンに向かい、キーボードを叩く。
これで暫らくはシオンも来ないだろう。
でも忘れたころに招かざる客は、扉の向こうからやってくる。
扉の向こうの・・・招かざる客 関連作品
扉の向こうの招かざる客は、２度ノックするEnd
2017/10/31 改稿
2011/01/24
Back本当は自分にキリ番企画で書いた作品ですが、少し長くなってしまったので、急遽OVEL用に作成し直しました。
900000キリ番は、この作品のシオンサイドです。（2011.01.28 UP済み）